「ROE」が高いほど経営効率がよいと判断される
オルタナティブ戦略の中心的役割を担うヘッジファンドには、多様な運用戦略がある。そして、数多くあるヘッジファンドのなかから有用な戦略を持つヘッジファンドを見極めるにあたっては、これまで世界中で投資・運用戦略のベースとなり、長い歴史を持つ「伝統的ファイナンス理論」の仕組みとその限界をしっかりと理解することが重要である。
日本株投資において、この伝統的ファイナンス理論を基にした「ファンダメンタルアプローチ」をとるヘッジファンドには、「ROEモデル」を活用しているファンドも多い。
ROEは、Return On Equityの略称で、「自己資本利益率」と呼ばれる。投資家が投下した資本に対して、企業がどれだけの利益を上げたのかを表す財務指標であり、ROEが高いほど経営効率がよいと捉えられる。ちなみに、ROEは次のように計算する。
●ROE=当期純利益÷自己資本
まず初めに、日本で「ROE経営」および「ROE投資」への関心が高まった背景を説明する。
日本で高まる「ROE経営」や「ROE投資」への意識
政府、東証、金融庁が中心となって積極的に「スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」を推進したことに加え、「JPX日経インデックス400」や「伊藤レポート」など新たなROE関連指数や提言レポートが公表されたことを背景に、日本の企業や投資家の間で「ROE経営」および「ROE投資」に対する意識が高まったといえよう。
それぞれの内容を簡単に説明する。
◆スチュワードシップ・コード
2014年に金融庁が制定した責任ある機関投資家の行動原則。建設的な対話と適切な議決権行使を通じて投資先の資本効率を高め、その持続的な成長に寄与することを求めている。
◆コーポレートガバナンス・コード
2015年6月から適用された上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針。
※中長期的な企業価値の向上に向け、不祥事などを抑制する「守りのガバナンス」だけでなく、経営陣による適切なリスク・テイクを後押しするための「攻めのガバナンス」の実現を求めたものとなっている。
◆JPX日経インデックス400
日本取引所グループとその傘下の東京証券取引所および日本経済新聞社が共同で開発し、2014年1月6日から公表が始まった株価指数。2013年8月30日の時価総額を10,000ポイントとして算出。東京証券取引所の第一部、第二部、マザーズ、JASDAQ上場銘柄のなかからROE等を基に選定された400銘柄で構成される株価指数。
◆伊藤レポート
伊藤邦雄氏を座長とした経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書の通称。2014年8月に公表された。企業が投資家との対話を通じて持続的成長に向けた資金を獲得し、企業価値を高めていくための課題を分析し、提言を行った。そのなかで、ROEの目標水準を8%と掲げた。また、2017年10月にはアップデート版にあたる「伊藤レポート2.0」が公開された。
「伊藤レポート」について補足すると、レポート全体としては、日本企業の収益性が長期的に停滞している現状を改善し、「持続的成長の促進」を促すための提言となっている。このレポートのなかで、日本の資本市場ではショートターミズム(短期志向)が顕在化するなか、持続的成長に必要な長期的なイノベーションに向けた投資が困難になっており、企業による長期的なイノベーションに向けた投資を促すためには、それを支える長期的な資金が必要であると強調。
企業と株主との間の長期的な企業価値創造を指針とした一種の協力関係を構築し、企業による長期的イノベーションを促進することで日本の経済成長につなげるべきであると提言している。
そのなかでも企業と投資家の「協創」による持続的価値創造を目指す「エンゲージメント」や、株主資本コストを上回るROEを目標(ROEの具体的なターゲットとして最低限でも8%のROEを上げられるように要請)とする「ROE経営」などが経営、投資の実務家の多くの賛同を得て広がっていったといえよう。
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