本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。今回は、「ROEモデル」を活用するヘッジファンドを検討する際のポイントを中心に見ていきます。
ROEを活用した3つの「モデル」
次に、ROEを活用したモデルを簡単に紹介する。ROE経営は、「①残余利益モデル」から理論的に正当化されている。残余利益モデルは、将来の「残余利益」によって株式価値を算定する手法で、
残余利益=当期純利益-自己資本×株主資本コスト
株式価値=自己資本+将来の残余利益の合計
ROE=当期純利益÷自己資本
とすると、
●残余利益=ROE×自己資本-自己資本×株主資本コスト
=自己資本×(ROE-株主資本コスト)
となるため、
1. 残余利益>0
2. ROE>株主資本コスト
3. 株式価値>自己資本
の3つは同じ命題になり、ROE>株主資本コストが価値創造のための必要十分条件であることがわかる。
他のモデルとしては、ROEの計算に株価・バリュエーションとの関係を用いた②PERとPBRの視点を用いるものがあり、計算式は次のようになる。
●EPS(1株当たりの純利益)=ROE×BPS(1株当たりの純資産)
PBR=株価÷BPSから理論株価=PBR×BPSが導かれ、PBR=ROE×PERであることから、PERが一定と仮定するとROEが上昇すれば、PBRが上昇し、BPSが一定と仮定するとPBRの上昇が理論株価の上昇につながることが理解できる。
その他に「③配当割引モデル」にROEを用いた視点もあり、rを株主資本コスト、gを成長率とすると、計算式は次のようになる。
●理論株価=(BPS×ROE×配当性向)÷(r-g)
この場合、BPSの上昇、ROEの拡大、配当性向の上昇、成長性の高まり、株主資本コストの低下が理論株価を押し上げる要因になる。
\投資対象は株式、債券だけではない!/ 金融資産1億円以上の方向け
「本来あるべきオルタナティブ投資」 >>他、資産運用セミナー多数開催!
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
山一證券、メリルリンチ日本証券、損保ジャパンアセット(現SOMPOアセット)などでの富裕層・法人営業に加え、年金基金、投資信託のアナリストやファンドマネージャーとして新興市場やオルタナティブを含む幅広い市場・商品の担当責任者を経て、2016年に東海東京調査センター入社。
現職では短中期の戦術的資産配分(タクティカル・アセットアロケーション)やオルタナティブ投資(ヘッジファンド・テクニカルやコモディティ戦略含む)の視点を踏まえたグローバルな日本株の市場分析等を行う。他の代替資産・戦略としてJリート投資戦略、ESG投資戦略、行動ファイナンス投資戦略などもカバーしている。
英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA。アライアント国際大学・カリフォルニア臨床心理大学院米国臨床心理学修士号(MA)。慶應義塾大学商学部卒。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、国際テクニカルアナリスト連盟検定テクニカルアナリスト(MFTA)、CFP、英国王立勅許鑑定士(MRICS)、不動産証券化協会認定マスター、中小企業診断士。
日経CNBCなどのTV・メディアに出演。日経新聞、QUICK、ロイター、ブルームバーグ、時事通信、東洋経済オンライン、幻冬舎ゴールドオンラインなどでも執筆、コメントを行う。ヘッジファンド・テクニカルのキャリアとして世界のテクニカルアナリスト協会を束ねる国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)の理事などを歴任。早稲田大学ビジネスファイナンスセンターや同志社大学、青山学院大学等で講師を務める。
著書には投信営業に行動ファイナンスアプローチなどを活用した『会話で学ぶ!プロフェッショナルを目指す人の「投信営業」の教科書』(2021年)がある。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載東海東京調査センター「オルタナティブ投資戦略取材レポート」