(※写真はイメージです/PIXTA)

ブラジル中銀は今回の金融政策決定会合で利上げ幅を引き上げたのは、インフレ率上昇への懸念が足元高まったからと見られます。ブラジル中銀は短期的なインフレ率の変動要因として電力価格や食料価格の上昇をあげています。また、別の変動要因として財政政策の動向を指摘しています。来年の大統領選挙を前にした警告とも見られます。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報・ヘッドラインを転載したものです。

インデックスファンドより高いリターンを狙う!
「アクティブファンド特集」を見る

ブラジル中銀:政策金利の大幅引き上げでインフレ率の上昇を抑制する姿勢を示す

ブラジル中央銀行は2021年8月4日の金融政策決定会合で、大方の市場予想通り政策金利を1%引き上げ5.25%とすることを発表しました。

 

ブラジル中銀による過去3回の会合の利上げ幅は0.75%でしたが、今回は利上げ幅を拡大しました。インフレ率上昇に対する抑制姿勢を強めた格好です(図表1参照)。

 

予想時点:2021年6月(左、前回)~2021年8月(右、今回) 出所:ブラジル中銀のデータを使用してピクテ投信投資顧問作成
[図表1]ブラジル中銀によるインフレ率予想 予想時点:2021年6月(左、前回)~2021年8月(右、今回)
出所:ブラジル中銀のデータを使用してピクテ投信投資顧問作成

どこに注目すべきか:1%利上げ、IPCA-15、財政政策、大統領選挙

ブラジル中銀は今回の金融政策決定会合で利上げ幅を引き上げたのは、インフレ率上昇への懸念が足元高まったからと見られます。ブラジル中銀は短期的なインフレ率の変動要因として電力価格や食料価格の上昇をあげています。また、別の変動要因として財政政策の動向を指摘しています。来年の大統領選挙を前にした警告とも見られます。

 

まず今回の利上げの要点を整理します。今回の利上げについて市場では当初0.75%の利上げを見込んでいました。前回の会合の声明文で金融政策の今後の方針について「正常化に向け同程度の調整を行うと予想する」と述べられていたからです。ブラジル中銀は過去の会合でも同様の表現で0.75%の利上げを示唆してきました。

 

市場予想が0.75%から変わったのは、ブラジル地理統計資料院(IBGE)が7月23日に発表した7月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)が前年比8.59%と、市場予想や前月を上回り、インフレ懸念が根強いことが示されたことがきっかけと思われます。ブラジル中銀の今年のインフレ目標は3.75%で、7月実際のインフレ率はこれを大きく上回ったからです。ブラジル国債の利回りもこの指標が発表された後から上昇しています。例えば2年国債利回りは約7.7%から足元では約8.5%にまで上昇しています。

 

ブラジルのインフレ率が上昇した背景はサービス価格や過去のレアル安の影響により、輸入に依存する電化製品や、燃料価格上昇による交通関連項目の上昇が挙げられます。また今回の声明文では電力価格と食料品価格上昇の影響も指摘しています。もっともこれらの要因は短期的で、ブラジル中銀のインフレ予想を見ても、引き上げられたのは21年で、22年は据置いています。ただ、ブラジル中銀は物価のリスク要因として財政政策拡大を匂わせています。

 

次にブラジル中銀の財政を振り返ります。ブラジルの財政状況を債務残高対GDP(国内総生産)比率で見ると6月が84.0%と低下(改善)傾向です(図表2参照)。

 

月次、期間:2018年6月~2021年6月 出所:ブルームバーグのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成
[図表2]ブラジルの政府債務残高と純債務の対GDP比率 月次、期間:2018年6月~2021年6月
出所:ブルームバーグのデータを使用してピクテ投信投資顧問作成

 

昨年の放漫財政から、財政規律を維持する路線に転換したことで、依然新興国の中では高水準ながら、改善が見られます。ただし、ブラジルの財政運営はブラジル中銀預金の引き出しで国債発行を抑えるなど運営が複雑で多方面から見る必要があります。例えば純債務対GDP比率は足元、むしろやや上昇しています。背景は税収など財政の基礎的な収益をベースとしたプライマリーバランスなどが悪化しているためと思われます。新型コロナへの対応などによる歳出圧力は依然大きいと見たほうが良さそうです。

 

また、ブラジル財政の今後は、来年にも予定される大統領選挙も懸念材料です。再選を目指すと見られるボルソナロ大統領は先月、進歩党の党首を要職につけ関係改善を図りました。ボルソナロ大統領は現在無所属です。ブラジル憲法により選挙に立候補するにはどこかの政党に所属する必要があります。今回の人事はその布石と思われます。

 

南米では大統領選挙前に財政が悪化する傾向があり、ブラジル中銀も懸念していることと思われます。ブラジルのインフレ動向を占う上で、政治動向に対する注視が今後もさらに求められそうです。

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ブラジル中銀、1%の大幅利上げと今後のポイント』を参照)。

 

(2021年8月5日)

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社

運用・商品本部投資戦略部 ストラテジスト

 

日本経済の行方、米国株式市場、新NISA、オルタナティブ投資…
圧倒的知識で各専門家が解説!カメハメハ倶楽部の資産運用セミナー

 

カメハメハ倶楽部セミナー・イベント

 

【12/10開催】
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
―税務調査を録音することはできるか?

 

【12/10開催】
不動産「売買」と何が決定的に違うのか?
相続・事業承継対策の新常識「不動産M&A」とは

 

【12/11開催】
家賃収入はどうなる?節目を迎える不動産投資
“金利上昇局面”におけるアパートローンに
ついて元メガバンカー×不動産鑑定士が徹底検討

 

【12/12開催】
<富裕層のファミリーガバナンス>
相続対策としての財産管理と遺言書作成

 

【12/17開催】
中国経済×米中対立×台湾有事は何処へ
―「投資先としての中国」を改めて考える

 

 

【ご注意】
●当レポートはピクテ投信投資顧問株式会社が作成したものであり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。当レポートに基づいて取られた投資行動の結果については、ピクテ投信投資顧問株式会社、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当レポートに記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当レポートは信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当レポート中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資家保護基金の対象とはなりません。
●当レポートに掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録