コロナ禍で「戸建て住宅への回帰」が起きたワケ
■住宅の「広さ」と「安さ」を求める動きが強まった
3大都市圏や札幌・仙台・広島・福岡などの地方中枢都市に限らず、これまでマンションの需要は拡大してきた。少人数世帯数、高齢者数、共稼ぎ夫婦数の増加に加えて、管理が戸建て住宅に比して容易であるなどの理由もあって、マンションは人気があった。特に、都心や駅近の立地条件が生活や通勤に便利で、若年層から高齢者まで、幅広く受け入れられてきた。
しかし、コロナショックで生活や働き方が変化したことで、住宅の選択が多様化してきた。「戸建て住宅」を希望する人が増加し、マンションからの住み替えの動きが出てきた。第一次の住宅購入でも戸建て住宅のニーズが急速に強まった。
新築戸建ての成約件数は、コロナショック以前は、業界在庫が増加傾向にあり、2020年3月には、決算期に合わせた値引き処分が目立っていた。しかし、その後は品不足となった。中古の戸建て住宅も、6月以降は好調が続いている。新築・中古を問わず、「戸建て住宅」の見直しが急で、人気が高まっている。
これは建物面積の「広さ」と、住宅として「独立型」が評価されたものである。コロナショック後、テレワークが広がったことで、自宅で過ごす時間が多くなり、仕事用の部屋が必要になり「広さ」が注目されるようになった。
もう一つは、やはりマンションの在宅時間が増え、従来までは気づかなかった「音」が気になるようになったことである。マンションの上下・両隣の音や声が気に障り、戸建て住宅への転居を決める人が出てきた。
あるマンションデベロッパーからは、入居して十数年も経過したマンションの住人から、「音」がうるさいと3桁に近いクレームが出たとの話を聞いた。今までまったくなかったクレームに、突然のことで、コロナショックによる影響を改めて認識させられたという。
共同住宅では感染症にかかるリスクが高いという理由で、戸建て住宅へ買い替えたいという人も出ている。これまでの狭くても、少々高くても、駅近・都心のマンション、という流れに変化が出ている。毎日決まった時間に通勤する働き方から、テレワークの導入によって、利便性を絶対視する住宅選択に変化が出てきている。
忘れてはならないのは、戸建て住宅は価格がマンションに比べて安い、割安であるということである。
個人所得の増加が期待できない時代にあって、一段と生活防衛の動きは強まっており、高額なものは在庫として残っている。「広さ」「独立型」「価格の安さ」に関心が高まったことで、戸建て住宅が見直されることになった。