斜面地を開放感あるデザイナーズマンションに
前回の続きです。この提案が受け入れられた結果、完成したのが、ツインコート菊名です。敷地は斜面地から木造の賃貸住宅の建っていた場所にかけての一帯です。斜面地は高低差が8~10mほどあったことから、Uさんはまさかそこに、このような賃貸住宅が建つとは考えもしなかったようです。
建物は下の擁壁との関係でどうしても出入りの多い形で、それだけに住戸内の居室には窓が広々と確保されています。いずれも出窓タイプなので、LDKを除く居室一つ一つは6畳前後ながら広々とした開放感を得られます。
標準的なファミリータイプの分譲マンションには見られない間取りも、デザイナーズマンションにふさわしい造りです。
このツインコート菊名はその名称にも表れているように、建物2棟で構成されています。1棟は賃貸住宅として一般の市場に出しているもので、もう1棟は法人にまるまる賃貸し、社宅の独身寮として利用していただいているものです。
その後、建築設計の依頼を受けて手掛けたのが、セントラルコート菊名です。ご自宅とツインコート菊名を除いた残りの土地を活用したものです。道路からのアプローチを確保するために、隣地を一部買い取りました。
「地域」に対して何ができるのかという視点を持つ
セントラルコート菊名はその名の通り、中庭を中心に2棟の建物で構成するものです。北側のツインコートと違って、ここでは単身者用として1Kの間取りも北側に用意しています。また、メゾネットで構成されているファミリータイプも用意されています。
環境に対する関心から、屋上緑化や壁面緑化にも取り組みました。JR横浜線菊名駅のホームからツインコートを見たときにコンクリートだけで無粋だったことから、その反省に立って、セントラルコートでは緑化を取り入れました。
セントラルコートが完成したのは、2001年10月です。その2カ月前から、地元の不動産仲介会社や管理会社のホームページで入居者を募集し始めました。反響は大きく、1Kタイプは単身の女性から、ファミリータイプは二人住まいの方からの申し込みが多く見られたといいます。
Uさんは地主として地域に対して何ができるのかという視点を持ち、ピアノの演奏会などを開催し、居住者に加え地域住民にも来場を呼び掛けています。ご自身、ツインコートやセントラルコートの敷地をお父様から引き継いだ立場だけに、それらをどう次の世代につないでいくかという点も強く意識しています。
敷地内の樹齢70年のモチをエントランス脇に移植したり、敷地内に自生していたハギを屋上庭園に移し替えたり、敷地内の擁壁に利用していた大谷石をアプローチの舗装用に再利用したりしたのはすべて、その気持ちの表れです。
ユニークなのは、菊名という地名とご自身の姓を冠した「ヴィレッジ」と、この一帯を呼んでいる点です。思い入れが、それだけ強いようです。
近所は桜の名所です。Uさんのご自宅の前にも、桜並木が見られます。そこで、花見の季節には道行く人がくつろげるような休みどころをご自宅の一角につくる構想を提案しているところです。
【建築概要】
●ツインコート菊名
所在地:横浜市港北区
主用途:賃貸住宅
構造・階数:鉄筋コンクリート造、地上3階、地下1階
敷地面積:397.15㎡
延べ床面積:663.54㎡
総戸数:8戸
間取り:1LDK・2LDK・3LDK
住戸面積:43.47~71.82㎡
設計:環境建築設計
施工:古久根建設
完成:1990年3月
●セントラルコート菊名
所在地:横浜市港北区
主用途:賃貸住宅
構造・階数:鉄筋コンクリート造、地上3階・地下2階
敷地面積:742.25㎡
延べ床面積:1158.70㎡
総戸数:16戸
間取り:1K・2LDK・3LDK
住戸面積:32.75~79.41㎡
設計:環境建築設計
施工:松井建設
完成:2001年10月