前回は、ペット共生の賃貸住宅の事例を紹介しました。今回は、土砂崩れなどの危険性があった斜面地を活用し、収益不動産に生まれ変わらせた事例を見ていきます。

斜面地を含む土地を維持するにはコストがかかる・・・

敷地は、東急東横線とJR横浜線の菊名駅から歩いて数分の住宅地に広がる斜面地を含む土地です。

 

東急電鉄の前身の会社が沿線で戦前に宅地分譲したものを、土地所有者であるUさんのお父様が購入しました。ご自宅のほかは一部、木造アパートと別棟で木造の賃貸住宅を建設し、社宅として法人に賃貸していました。

 

この土地を相続したUさんが土地活用を考えるようになった発端は、北東下がりの斜面地の扱いに困っていたことです。

 

この斜面地の下は東急東横線の線路です。斜面がむき出しのままでは、例えば大雨の時に線路上に土砂が崩れ落ちてくる危険性もあることから、東急側から擁壁を築造するように求められていました。

 

ただそれには当然、コストが掛かります。この所有地を保有するには負担が生じるのです。そこで東急側と交渉する中で最終的には、この斜面地を買い取ってもらう方向で話を進めていました。出会いはちょうどその頃です。

 

もともとはご自宅の設計を知人の設計者とともに依頼された間柄です。その仕事で信頼を得て付き合いを続けていく中で、土地のことで何か困っていることはないかを尋ねると、この斜面地の問題が話題に上ったのです。

賃貸住宅に「擁壁」の役割を担わせる!?

話をうかがって、もったいないことだと思いました。確かに擁壁を築造するだけでは、そこにコストが掛かるだけです。手放したくなる気持ちも分かります。

 

しかし、お父様からせっかく引き継いだ土地です。うまく活用する手はないものかを考え抜き、その結果、一つのアイデアに行き着きました。

 

ただ擁壁を築造するのではなく、収益を生む賃貸住宅を建設し、その構造物に擁壁の役割を担わせるという提案です。駅近くの貴重な土地を一部とはいえ、みすみす手放す必要はありません。建設コストはかさみますが、賃貸住宅の収益で十分に回収可能です。

 

何しろ、2路線の鉄道駅から歩いて数分の好立地です。渋谷にも横浜にも東急東横線1本で出られます。これだけの立地条件であれば、賃貸住宅という土地活用に十分勝算は見いだせます。

 

しかも、ファミリー向けの賃貸住宅は菊名周辺には立地していませんでした。競合するような物件がない点もプラスに働きます。

 

そもそも土地は最後の最後まで売るのは避けるべきではないかと私は考えています。売れば売ったで一時は膨大な収入がありますが、その収入の譲渡益に税金が課されます。せっかく受け継いできた土地ですから活用を図るのが第一ではないでしょうか。

 

もちろん、家族構成が変わったとか相続放棄の恐れがあるとか、残す意味が失われた場合には別です。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2014年6月12日刊行の書籍『変形地の価値を高めるマンションづくり』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

変形地の価値を高める マンションづくり

変形地の価値を高める マンションづくり

宮坂 正寛

幻冬舎メディアコンサルティング

別荘地のような斜面地、一角に他人の土地を挟む変形地、奥まった場所にある旗竿地…。 活用をためらってしまうような条件の悪い土地を活用するためには、その土地の潜在価値を引き出すことが重要です。本書では、そのために必…

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