ESGとは対極的な考え方を持つヘッジファンドも存在
一方、長期スタンスであるESG投資が拡大した背景には、ヘッジファンドなどによる「ショートターミズム(Short-termism)※」への批判があったこともあり、未だにESG投資とヘッジファンドは「水」と「油」の関係として捉えられることが多い点も忘れてはなるまい。
※「短期志向」のこと。投資家が短期的に利益を上げようと頻繁な売買を繰り返すことや、投資先企業の中長期の企業価値を分析することなく(または短期の企業価値分析のみで)売買することなどを指す。
このようなショートターミズムは、企業が安定的に事業に取り組むことや、ESGの視点を中長期の視点で経営に取り入れようとする動きを阻害し、経営者自身がショートターミズムの視点で経営を行うといった事態を招いたり、ESGの中長期の取組みの最中に経営者が途中で解任されるといったことなども起こりうる。
直近の事例では、2021年3月15日に中長期のESG経営に積極的に取り組んでいた、食品世界大手仏ダノンのエマニュエル・ファベール元取締役会議長兼CEOが解任されたことが挙げられるだろう。
この一連の事案については、英ヘッジファンドBluebell Capital Partnersや米Artisan Partners(APAM)等の株主が、同社に対し、ガバナンスの強化などを要求していたことがあると言われる。短期の利益を追い求める投資家にとって、中長期的なESGの取組みは、同業他社との利益指標の劣後をもたらす時間軸の合わない不都合な取り組みであったということなのかもしれない。
このように、短期の利益を重視する投資スタイルや、武器・たばこ・ギャンブル関連銘柄へ積極的に投資を行う、ESGとは対極的な考え方を持つヘッジファンドも存在する。
その一方、ESGに積極的に取り組み、対話を通じて企業価値の向上や社会的課題の解決につなげようとするジャッジメンタルでアクティビスト的なヘッジファンドも存在することも事実だ。さらに、ESGをファクター投資の一つとして捉え、AIなどを活用した機械的なクオンツ運用を行うヘッジファンドもある。
以上のように、ESGの視点を活用するヘッジファンドのなかにも多様な考え方、時間軸、投資手法がある。そのような点も踏まえて、しっかりとデューデリジェンス(Due diligence)を行った上で、自分の考え方や投資スタイルに合ったヘッジファンドを選択することが重要であろう。
中村 貴司
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
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