(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。今回は、「ESG(環境、社会、企業統治)の視点」で投資判断をしている「ヘッジファンド」の選別ポイントを見ていきます。

企業が「ESG投資」に取り組むことで得られる効果

世界でESG投資への関心が高まっており、ファンド残高も拡大している。

 

ESG投資とは、環境、社会、企業統治などを考慮する投資のことだ。E(環境)は地球温暖化や環境汚染への取り組み、S(社会)は労働、雇用問題への対応や女性活躍などダイバーシティへの対応、G(企業統治)は資本効率を高めて不祥事を防ぐ仕組み作りなどを指す。

 

ESG投資で何がもたらされるのかについては、様々な意見や見方がある。

 

たとえば、ESGの取り組みを強化しているオムロン(6645)は、①資本コスト低減(情報開示をしている企業としない企業では30bp程度違うとの分析結果)、②株価のボラティリティ(変動率)を抑える、③ネガティブな事象が発生した際の株価の戻りが早い、④インサイダー取引を抑止する(社内従業員も含む)、⑤経営力を高度化するための建設的な対話のきっかけになる、としている。

 

また、ESGの投資効果に関する学術的(実証)分析においては、「G:Governance」の資本効率に対するものが古い。たとえば、資本コストの低下や財務パフォーマンスとのポジティブな関係、株価とのポジティブな関係が見られるとの分析結果がある。

 

さらに最近では、「E:Environment」や「S:Social」に関する項目への分析が広がってきている。「E」の項目として、環境パフォーマンスが株式の資本コストに与える影響を分析した結果、環境経営に取り組む日本企業の資本コストは低くなる可能性が導かれている。東日本大震災以降、企業の環境負荷の増加に伴って株式資本コストが高まる効果が見られ、投資家が環境負荷の大きさをリスク要因として捉えている可能性があるとの分析結果もある。

 

また、「S」の項目としては、たとえば、働きやすい企業(日本経済新聞社が毎年実施している「人を活かす会社」の調査結果を活用)の業績が同業他社に比べて有意に良好であること、株式投資から超過リターンが得られること、これらの効果が将来の数年間という長期に渡るとの結果もある。

「ESGスコア」で投資判断をするヘッジファンドもある

The European Centre for Corporate Engagementは、「ESGスコア」は大規模企業が高いというサイズ・バイアスがあり、また、ESGスコアが改善しているモメンタムがある企業はリスク調整後のリターンが高いとの研究を発表している。

 

ESGで議論の余地が残る企業を除外すると、リスク調整後のリターンは改善する。ただし、単なるESGのベストインクラス企業で構成されたポートフォリオではリターンが劣後すると分析している。

 

このような学術的視点は、クオンツと対話(エンゲージメント)を組み合わせたESGのロングショート型のヘッジファンドなどで活用されている。

 

たとえば、同業他社よりESGスコアが劣っているものの、改善余地が残っている場合、企業経営者やIR担当者とのミーティング・対話を通じて改善を促すことで、企業価値の向上が見込まれる(ESGモメンタムのある)企業をロング(買い)する。

 

逆に、同業他社よりESGスコアが高いものの、ただ数字合わせの形式主義に陥っていたり、対外的なアピールだけ上手い会社で実績がついてこなかったり、または中長期の企業価値向上につながらないESG項目に力を入れているという実態がミーティング・対話を通じてわかる場合もある。そのような企業は、今後ESGスコアが落ちる可能性や企業価値が毀損する事象の発生確率を高めに見積もる(ESGモメンタムが低下する)ことなどにより、ショート(売り)を行う。

 

このようなESGのモメンタムを活用したロング・ショートファンドの影響力(株主としての企業への発言力やファンドの需給を通じた株価へのインパクト)が高まれば、企業に対してESGの本質的・本格的な取り組みを促す可能性もあろう。

 

 

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このレポートは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の最終決定は、お客様自身の判断でなさるようお願いいたします。このレポートは、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、東海東京調査センターおよび東海東京証券は、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。なお、このレポートに記載された意見は、作成日における判断です。

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