ヘッジファンドには様々な戦略タイプがある
ヘッジファンドには様々な戦略タイプがある。たとえば、「CTA戦略」は、市場の上昇・下落トレンドを見極めて売買することで収益を狙う戦略のことをいう。ちなみに、CTAとは商品投資顧問業者のことで、「トレンドフォロー戦略」などが有名だろう。
また、「グローバルマクロ戦略」は、株式、債券・金利、為替など世界中の国や地域のマクロ経済見通しや財政・金融政策に加え、対外政策に絡む政治要因なども把握した上でポジションを構築して収益を上げる戦略のことで、ジョージ・ソロスなどのヘッジファンドがとった手法として有名である。
その他には、「アービトラージ」「レラティブバリュー」「破綻(ディストレス)証券」「マーケットニュートラル」「ロングショート」「ボラティリティロング・ショート」、マルチストラテジー」などの戦略がある。
「AI型ヘッジファンド」の6つの戦略タイプ
「AI戦略」で有名なヘッジファンドは、世界最古の歴史を持ち最大級の英国ヘッジファンドであるマングループや、ジェイムス・シモンズ氏(数学者で人間の感情、バイアスを排除した機械的な運用を実施し巨万の富を築いたことで知られる)が率いるルネッサンステクノロジー、ツーシグマやブリッジウォーター・アソシエイツなどが有名である。
とはいえ、AI戦略型のヘッジファンドは、運用の中身や投資手法がわかりにくいとの批判の声もある。そのような場合には、AI活用によるヘッジファンドの戦略タイプを次の6つに分けると全体像がつかみやすい。
(1)時系列モデルとして活用
→株価、出来高データなどのテクニカルデータなども活用
(2)自然言語処理として活用
→ポジティブワードやネガティブワードの量、表現の変化などを活用
(3)画像処理として活用
→CNN、チャートのパターン分析などを活用
(4)ファクターによるクロスセクションとして活用
→モメンタム、リターンリバーサルやトレンド、オシレーターのスイッチングなど
(5)エージェント・ベーストモデルとして活用
→分析手法の別、投資主体の別、参加者の数、資金量の違いによる市場の動きを分析
(6)ヘッジファンドマネージャーの行動変容・メンタルコントロールとして活用
→合理的な投資行動に向けて、また非合理的な投資行動を回避するためのリスク管理として活用
もう一段、具体的なAI戦略をイメージするためには、学術論文に掲載された投資戦略を参考にすることも重要だろう。たとえば、日本でのAIを活用した学術論文のなかには、株価変動パターンの類似性を用いた戦略分析がある。
代表的な世界の株価指数であるTOPIX、SP500、FTSE、DAX、CACなどを用いて、月末に当月と類似したパターンを過去から探索し、当該パターンを用いた月次の投資判断を買いと売りで分類予測する。
検証期間は2006年1月から2017年8月までの10年超の長期期間とし、分類手法は類似パターンを探索するIDTW(Indexation Dynamic Time Warping)+類似パターンから予測を行うk*NN(modification k-nearest neighbor algorithm)を用いている。
IDTW+k*NNを用いた相場のパターン認識による投資手法は、10年間で60%の平均正解率および200%超の累積リターンをもたらした。これは、モメンタム効果に加え、価格変動パターンが予測に有効であるという、弱度の効率的市場仮説に対する反例と言える。
効率的市場仮説をベースとしたファンダメンタルズ分析が機能しない局面(人間の合理性では上手く対処できない局面を含む)での対応や戦略分散によるポートフォリオのリスク管理という点で、AI戦略型のヘッジファンド活用も一つの選択肢になると考える。
組み込む場合には、持続可能なポートフォリオ運用の観点から、コアの部分では学術的な裏付けがあり、検証および説明可能なAI戦略を活用したヘッジファンドで対応するのが望ましいだろう。
一方、サテライト部分においては、機械運用のアノマリーとしてオプション的に活用するのであれば、合理的な説明はできないものの、投資収益の高いブラックボックス型のAI戦略も投資対象になろう。
中村 貴司
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
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