なぜ妻は、わが子の「代理人」になれなかったのか?
それでは、遺産分割協議はどうでしょうか。
遺産分割協議は、亡くなった方の遺産を分ける協議であり、非常に重要なものです。あとで協議が取り消されてしまったら、せっかくみんなで話し合って決めた遺産の配分がなかったことになりますので、そのような事態は避けなければなりません。そのため、未成年者がいる場合には、親権者の同意、または親権者が未成年者を代理して、遺産分割協議を行うのが通常なのです。一般的には、親権者が未成年者を代理して(未成年者に代わって)遺産分割協議を行うことが多いのです。
しかし、ここで問題が生じます。今回の件で考えてみましょう。
今回の相談者Sは後妻であり、亡くなった夫には離婚した元妻のTがいます。そして、前述したとおり、元妻TにはCとD、SにはAとBのお子さんがいます。A~Dはいずれも未成年者です。この場合、亡くなった夫の相続人は、上図の「相続人関係図」内の、枠で囲った5名(S、A、B、C、D)となります。
AとB、CとDはそれぞれ未成年ということですから、5名で遺産分割する場合には、AとBの代理をSが、CとDの代理をTがすればいい、と考えられる方もおられるかもしれません。
しかし、ここで考えなければならないことがあります。遺産を分けようとするとき、Sの受け取る遺産を多くすればするほど、AやBの受け取る額が減ることになります。すなわち、遺産分割協議とは、遺産の「山分け」ですので、だれかが多くとれば、だれかが取れるパイが少なくなるということなのです。
このような状況下で、AとBの代理をSが行うとどうなるでしょうか。Sは、自身が相続人ですから、当然遺産分割協議に参加します。他方、Aの親権者でもありますから、Aの代わりに遺産分割協議に参加し、Bの親権者でもありますから、Bの代わりに遺産分割協議に参加します。
しかしこうなると、問題が生じます。S自身の相続分だけでなく、Aの分もBの分もすべてSが決めるのですから、例えばSが手心を加えてAやBの取り分を減らし、自分の取り分を増やすということができてしまうわけです。これでは、子の財産を守るための「親権者」の役割に反し、子ども達が不利益を受けてしまうことになります。このような状況を、「利益相反」の関係にあるといいます。
利益相反の状況にある場合、Sは、親権者としてAやBの代理をすることはできないとされています。そして、今回のような状況の場合には、「特別代理人」という第三者を、AやBの代理人として付けなければなりません。特別代理人は家庭裁判所が選ぶことになっているので、家庭裁判所に選任の申立てをしない限り、遺産分割協議をすることができないのです。
それでは、AとBには、それぞれ同じ1人の特別代理人をつけるということでいいのでしょうか? 答えはノーです。
なぜかというと、Aの取り分を増やそうとすると、Bの取り分が減ってしまう関係にあるためです。特別代理人がAかB、どちらかに肩入れをすることができてしまう状況であるため、これもまた「利益相反」の関係になってしまうわけです。
そのため、今回のような場合には、AとB、それぞれに特別代理人を選んでもらうよう、家庭裁判所に申立てをしなければなりません。
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