「母さんの金、使い込んだな!」「世話もしないでなにいってるの!?」…〈疑念+怒り+悲しみ〉が絡み合う、相続トラブルの実態【弁護士が解説】

「母さんの金、使い込んだな!」「世話もしないでなにいってるの!?」…〈疑念+怒り+悲しみ〉が絡み合う、相続トラブルの実態【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

相続の現場では、お金の計算とさまざまな感情が絡んだ、複雑なトラブルが起こりがちです。あるきょうだいのケースから、遺産分割トラブルの解決策を探ります。相続問題にくわしい、弁護士法人菰田総合法律事務所の國丸知宏弁護士が事例をもとに解説します。

兄から「亡き母の財産を使い込んだ」と疑われ、納得できない

今回の相談者は、50代の女性Aさんです。Aさんの母親が亡くなり、遺産分割について相談したいと、事務所にいらっしゃいました。

 

Aさんの父親は10年前に他界。そのため母親の相続人は、Aさんと、Aさんの兄の2人だけです。遺言書はありませんでした。

 

「母親の財産は自宅と預貯金です。ところが兄は〈預貯金が少ない。お前が金を使い込んだんだろう!〉といって聞きません…」

 

Aさんの母親の遺産は、次の通りです。

 

自宅土地・建物:2,000万円

預貯金:1,000万円

 

Aさんの兄の主張は、次の通りです。

 

「もっと預貯金があるはず」

「晩年の母親は認知症だった。金銭管理をしていたAさんが使い込んだに違いない!」

「預貯金の使い込みはしていない」と証明するには?

筆者がAさんに事情を確認したところ、Aさんは、元々実家の近くにマンションを購入して1人暮らしをしていましたが、10年前に父親が亡くなったのを契機に、母親が精神的に弱ってしまったため、平日はほぼ毎日仕事帰りに実家に顔を出し、一緒に夕食をとった後に帰宅。週末は実家に泊まって家事をしたり、母親の通院に付き添ったり、一緒に買い物に行ったりしていたそうです。

 

ここ3年ほどは母親が認知症になり、日常生活が困難になったため、Aさんは生活の拠点を完全に実家に移し、仕事も介護時短勤務に変更。ヘルパーと協力しながら介護をおこなっていたということでした。

 

「母が認知症になった3年前から、私が母の預貯金を管理していたのは事実です。しかし、自分のために母のお金を使ったことはありません」

 

Aさんは几帳面な方で、毎日日記をつけ、母親のための支出はすべてレシートをもらい、ノートに貼り付けて整理し、金額を記録していました。

 

主な支出の用途は、食費・医療費・光熱費・日用品・家電購入費・固定資産税・庭の剪定費用などが中心で、高額な出費としては、昨年、実家をバリアフリーに改装した際のリフォーム費用等がありました。

 

そこで筆者は、金融機関の取引履歴を取得の上、出金と、これに対応する領収書等を整理してまとめ、Aさんが母親の預貯金を使い込んでいないことの裏付けとして、兄に送付することにしました。

 

受け取った兄も、資料を確認した結果、Aさんが使い込みをしていないことを理解したようでした。

次ページ逆に、介護したことを評価されるべき!

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