(※写真はイメージです/PIXTA)

未成年のお子さんを連れて離婚した場合、多くは元配偶者から養育費を受け取ります。しかし、元配偶者からの支払いが滞り、その後亡くなった場合、過去に受け取るはずだった養育費と、未来に受け取るはずだった養育費は、どうなるのでしょうか。相続問題の解決に定評がある、弁護士法人菰田総合法律事務所の國丸知宏弁護士が事例をもとに解説します。

元夫の死を知った30代女性「養育費はどうなるの!?」

今回ご相談に来られたのは、30代の女性Aさんです。先日、Aさんの元夫・Bさんが亡くなったとのことでした。

 

「私にはBとの間に2人の子どもがいます。Bは再婚していたのですが、Bの今の奥さんから、Bの相続について、子どもたちも手続が必要だと聞きました。子どもは2人とも小学生なので、私が代わりに手続を進めるということでいいのでしょうか?」

 

Bさんの家族関係は、以下の通りです。

 

[図表]Bさんの家族関係図

 

Bさんの相続人となるのは、Bさんの配偶者である現妻と、Bさんの子であるお子さん2人の合計3人です。遺産分割を行うには相続人全員の同意が必要ですので、Aさんのお子さんも手続が必要ということになります。

 

また、Aさんは、手続のほかにも、気がかりなことがあるようです。

 

「実は、Bと離婚するとき、子どもたちの養育費として、1人あたり月5万円を支払うと約束してもらい、離婚協議書も作成したのですが、ここ1年ほど支払いが滞っていたのです。未払いの養育費は、Bの財産から回収したいです。それに、子どもたちもこれからお金がかかるので、今後の養育費も気になります…。Bの再婚相手に請求できるのでしょうか?」

 

今回は、未成年者が相続人となる場合の手続と、養育費について説明します。

未成年者の遺産分割

民法上、未成年者(18歳未満)は、行為能力が制限され、契約などの法律行為を行うには、法定代理人(未成年者の場合、通常は親権者)の同意を得る必要があります。

 

遺産分割も法律行為に当たるため、相続人に未成年者がいる場合、未成年者は、自ら遺産分割協議を行うことはできず、親権者が未成年者に代わって遺産分割手続に参加することになります(遺産分割協議書への署名押印等も親権者が行います)。

 

ただし、①親権者と未成年者である子の利益が相反する場合、または、②未成年者の子が複数おり、1人と他の子の利益が相反する場合は、家庭裁判所に、「特別代理人」の選任を請求しなければなりません。

 

①の具体例は、夫が亡くなり、妻と子が相続人というケースです。②の例は、今回のAさんのように、お子さんが複数おられるケースです。いずれも、相続財産を一方が多く取得すると、他方の取得分が少なくなってしまうため、利害関係が対立することになります。そこで、未成年者の利益を保護するため、「特別代理人」が未成年者に代わって遺産分割手続に参加することとされています。

 

今回Aさんは、お子さんのうち1人(お子さん①)についてはAさんが親権者として遺産分割を行い、もう1人(お子さん②)については特別代理人を選任することにしました。

 

特別代理人を選任するには、家庭裁判所に特別代理人選任の審判を求める申立てを行います。特別代理人には資格は必要ありませんので、弁護士等の専門家である必要はありません。Aさんも、Aさんの兄(お子さんたちの伯父)に頼んで、特別代理人となってもらうことにしました。

 

また、特別代理人の選任申立てを行う際には、遺産分割協議書の案も提出しなければなりません。そこで、Bさんの現妻と、具体的な遺産分割の内容について話をすることにしました。

 

Bさんの遺産として、不動産と預貯金がありました。協議の結果、現妻がすべてを取得し、Aさんのお子さんたちは、現妻から、法定相続分に応じた代償金を受け取るという方法で遺産分割を進めることにしました。

未払いの養育費はどうなる?

遺産分割協議書案を作成するにあたって、未払いの養育費はどのように扱われるのでしょうか。

 

未払いの養育費は、借金などの通常の金銭債務と同様に、相続の対象となります。Bさんには、お子さん1人につき、月5万円×12ヵ月=60万円の未払養育費がありました。

 

お子さん①の未払養育費60万円について、これを現妻、Aさんのお子さん2人で法定相続分にしたがって計算すると、

 

●現妻 60万円 × 法定相続分2分の1 = 30万円

●お子さん① 60万円 × 法定相続分4分の1 = 15万円

●お子さん② 60万円 × 法定相続分4分の1 = 15万円

 

となります。お子さん①は、養育費を請求できると同時に、支払義務を相続するということになります。債権者と債務者が同一人に帰属するため、法律用語で「混同」といって、この15万円は消滅します。

 

したがって、

 

●現妻 お子さん①に対し30万円を支払う

●お子さん② お子さん①に対し15万円を支払う

 

となります。

 

 

★「混同」によって15万円が消滅するプロセス

上記の計算について、補足をしておきたいと思います。

 

[1]お子さん①の分の未払い養育費

[2]お子さん②の分の未払い養育費

 

上記が「それぞれ60万円ずつある」という状況について、もう少し詳しくみていきましょう。

 

[1]の分の計算は、以下の通りになります。

 

(1)現妻……60万円 × 法定相続分2分の1 = 30万円

 

(2)お子さん①……60万円 × 法定相続分4分の1 = 15万円

 →「自分から自分に対する請求権になるので、『混同』により消滅」

 

(3)お子さん②……60万円 × 法定相続分4分の1 = 15万円

 

したがって、

 

●現妻:お子さん①に対し30万円を支払う

●お子さん②:お子さん①に対し15万円を支払う

 

が残ることになります。

 

また、[2]の分の計算が以下の通りになります。

 

(4)現妻……60万円 × 法定相続分2分の1 = 30万円

 

(5)お子さん①……60万円 × 法定相続分4分の1 = 15万円

 

(6)お子さん②……60万円 × 法定相続分4分の1 = 15万円

 →「自分から自分に対する請求権になるので、『混同』により消滅」

 

したがって、(2)と(6)は混同により消えるので、

 

(1)現妻 お子さん①に対し30万円を支払う

(3)お子さん② お子さん①に対し15万円を支払う

(4)現妻 お子さん②に対し30万円を支払う

(5)お子さん① お子さん②に対し15万円を支払う

 

が残ります。

 

その上で、(3)と(5)が『相殺』(お互いに同じ額で債権を消す)によって消えるので、残るのは、

 

(1)現妻 お子さん①に対し30万円を支払う

(4)現妻 お子さん②に対し30万円を支払う

 

だけになるというわけです。

養育費の「時効」に要注意!

なお、Aさんの場合は未払いの期間が1年分だったので問題ありませんが、離婚協議書によって取り決めた場合、養育費の時効は5年間です。そのため、未払いが5年以上にわたる場合には、時効にかかり、全額を請求できないこともありますので、注意が必要です(なお、今回とは関係ありませんが、調停や訴訟などによって養育費が確定している場合には、時効は10年となります)。

 

以上を踏まえて、今回の遺産分割は、Aさんのお子さんたちが、現妻から、不動産と預貯金の法定相続分に応じた金額、そして未払養育費30万円をそれぞれ代償金として受け取るということで合意しました。

 

そして、この遺産分割協議書案をもとに特別代理人を選任し、無事に遺産分割を終えることができました。

今後の養育費は払ってもらえる?

ところで、Bさんが支払うはずだった将来の養育費は、どうなるのでしょうか。

 

養育費の支払義務は、その性質上、義務者だけが負うものとされています。つまり、未払いの養育費と異なり、将来発生する養育費については、相続の対象にはなりません。

 

そのため、残念ながらAさんは、誰にも将来の養育費を請求できないということになります。

 

ただし今回は、Bさんが生命保険に加入しており、受取人をお子さん方にしていました。そのため、お子さんたちにまとまったお金が入り、遺産分割で取得した額も踏まえると、将来の金銭面の不安要素はなくなりました。

 

なお、仮に養育費が継続的に支払われていた場合には、亡くなられた方によって生計が維持されていたとして、遺族年金を請求することも考えられます。

まとめ

今回は、未成年者が相続人になる場合の手続と、養育費についてご説明しました。

 

相続というと、お若い方には無関係のように思われるかもしれませんが、不幸にも小さなお子様を遺して亡くなられる方もおられます。未成年者が相続人となる場合には、通常の遺産分割よりも複雑な手続が必要となりますので、専門家に依頼することが望ましいでしょう。

 

 

國丸 知宏
弁護士法人菰田総合法律事務所
弁護士

 

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