「母の預金を、姉が使い込んだのではないかと…」
今回相談に来られたのは、60代男性の山田さんです。山田さんは、最近亡くなった母親の相続について困っているということでした。
「先日母が亡くなりました。相続人は姉と私の2人です。母は遺言を作成しておらず、遺産は預貯金のみです。姉と私とで預貯金を半額ずつ取得しようという話になっているのですが、預貯金の金額があまりに少なすぎて…。いくらなんでもおかしいと思うのです」
山田さんの母親は、7年前に自宅を売却し、高級老人ホームに入所しました。山田さんの記憶によれば、自宅の売却代金は8000万円程度であり、元々の預貯金を含めると、1億円近くの預貯金があったようです。しかし、姉からは、老人ホームの費用で預貯金を使ってしまった、残りは100万円程度しかない、と言われたとのことです。
「母は5年くらい前から認知症が進行して、ここ2、3年は意思疎通ができないような状態でした。財産を管理していた姉が母の預貯金を使い込んだのではないかと疑っています。通帳も処分したと言って見せてくれません」
山田さんのように、預貯金の使い込みが疑われるというご相談は非常に多く見受けられます。今回は、このようなケースにおいて、どのように遺産分割協議を進めるべきか説明していきます。
預貯金の「取引履歴」を取り寄せ、使途不明金等を調査
預貯金の使い込みが疑われるときには、まず、預貯金の「取引履歴」を取得し、使途不明金・不正出金の調査を行います。取引履歴というのは、金融機関が発行する入出金の一覧です。口座名義人の相続人であれば取得することができ、取得に必要な書類や手数料等は各金融機関によって異なります。
今回は山田さんの意向を踏まえ、お母様が自宅を売却した7年前からの取引履歴を取得することにしました。取引履歴を確認したところ、自宅の売却直後には1億円の残高があったことが分かりました。その後の主な出金としては、老人ホームの入居一時金として5000万円の振込みと、老人ホームの月額料金として毎月30万円の引落しが確認できました。その他に、3年前から月1回程度、毎回50万円がATMから出金されていること、また、お母様の死後に300万円が出金されており、最新の残高は100万円であることが判明しました。
「老人ホームにかなりお金がかかったのはわかりました。しかし、その他の出金は姉が行ったと見て間違いないでしょう。3年間毎月50万円で1800万円、死後の300万円の出金で合計2100万円もあります。これらは遺産に含まれるのですか?」
預貯金の使い込みには、①生前の出金と、②死後の出金があります。このうち、②死後の出金については、預貯金は、被相続人の死亡日時点の残高が遺産額となりますので、とくに問題にはなりません。他方、①生前の出金は、だれが行ったものか明確でないことが多く、紛争になりやすいところです。
今回は、取引履歴の調査結果を踏まえ、山田さんの姉に対し、遺産は死亡日時点の400万円であることを伝え、また、山田さんの姉が出金したと思われる使途不明金1800万円を遺産に戻すよう求めました。