前回に引き続き、ペット共生の賃貸住宅を建てた事例を見ていきましょう。今回は、物件の設備などの詳細を紹介します。

ペットケアビジネスとの連携で独自のサービスを提供

前回の続きです。今回は、競争力を高めるために「ペット共生物件」として建設された物件の詳細を見ていきましょう。

 

ペット共生住宅としての造りは多岐にわたっています。まずリードフック。住戸の玄関やエントランスをはじめ、ごみ置き場や駐輪場など、ペットを抱きかかえたままでは用を足せない箇所にすべて設置しています。

 

エントランスには温水の出るシャワーを取り付け、散歩帰りのペットの足を洗えるようにしています。

 

またうんちダストと呼ぶ、大型犬の糞でも砕きながら流せる専用ダストも設置しました。屋上にはリードなしでペットを思い切り遊ばせることのできるドッグランを設けています。

 

住戸内の造りにも様々な配慮を加えています。床材は滑りにくくキズが付きにくい、しかも汚れを落としやすい素材を採用。

 

壁は腰の高さを境に素材を切り替える腰壁のスタイルで、キズの付きやすい下半分だけを取り替えやすくしています。コンセントはその上に設けることで、ペットの感電を防ぎます。

 

さらにここでは、ペットケアビジネスを展開するアドホックと提携し、入居者に様々なサービスを提供しています。ネイルカットやおしりのケアなど「基本エチケット」を月1回無償で提供するほか、トリミングやシャンプーなど美容サービスを優待価格で提供しています。

周辺環境への「気遣い」が土地活用成功のカギに

周辺の街並みとの連続感を意識し、戸建て住宅のスケール感を持ち込んだように、ここでは街並みの緑との連続性にも配慮し、植栽計画に力を入れています。

 

象徴は、三方を道路に囲まれた建物の3つの角にシンボルツリーとして植えた大山豆桜です。この桜は早咲きの桜で、このプロジェクトの前に担当させていただいた学生専用の賃貸住宅やご自宅併設の賃貸住宅の前にも植えられています。

 

花の咲く季節には地域の方々にも楽しんでもらいたいという、地域貢献を心掛けるKさんのお気持ちから、ここでも同じ大山豆桜を植えたのです。

 

代々受け継いできた土地の活用を図ってきたKさんは「社会的責任」という言葉を十分意識してお使いです。地元に大規模な建物を建てる以上、地域の皆様や周辺環境への貢献という社会的責任が新たに生じるというのです。

 

外観をはじめ、建物のデザインにこだわる背景には、このような、今後求められる大家さん像を思わせる考え方があります。

 

Kさんはこのプロジェクトの最初から、姪御さんを参加させています。その目的は賃貸業が何ものかを体感してもらうためです。次の世代へのつながりを考えているということでした。

 

この賃貸住宅の名称である「ウィンクルム野方」の「ウィンクルム」とは、ラテン語で「絆」を意味します。

 

入居者とペットの絆はもちろん、入居者と地域の方々もペットを介して親しくなったりコミュニケーションを深めたりするなど、絆を深めていければと思います。賃貸住宅として地域の方々からも愛される存在になることを期待しています。

 

【建築概要】

 

●ウィンクルム野方

 

所在地:東京都中野区

主用途:賃貸住宅

構造・階数:鉄筋コンクリート造、地上3階・地下1階

敷地面積:412.57㎡

延べ床面積:863.19㎡

総戸数:24戸

間取り:1K・1DK・1LDK

住戸面積:20.23~52・64㎡

設計:環境建築設計

施工:白石建設

完成:2010年9月

本連載は、2014年6月12日刊行の書籍『変形地の価値を高めるマンションづくり』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

変形地の価値を高める マンションづくり

変形地の価値を高める マンションづくり

宮坂 正寛

幻冬舎メディアコンサルティング

別荘地のような斜面地、一角に他人の土地を挟む変形地、奥まった場所にある旗竿地…。 活用をためらってしまうような条件の悪い土地を活用するためには、その土地の潜在価値を引き出すことが重要です。本書では、そのために必…

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