その他 経営戦略
連載西村あさひ法律事務所 ニューズレター【第33回】

近時の「世界に開かれた国際金融センターの実現」に向けた取組みについて

~キャリード・インタレストに関する税務上の取扱いの明確化、海外投資家等特例業務・移行期間特例業務の創設を中心に~

国際金融センター日本キャリード・インタレスト

近時の「世界に開かれた国際金融センターの実現」に向けた取組みについて ※写真はイメージです/PIXTA

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2021/7/5号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

三 国際金融ハブ取引に係る税制措置

1. キャリード・インタレストの税務上の取扱いの明確化

 

(1)従前の議論・実務の状況

 

PEファンドやベンチャーファンドにおけるゼネラル・パートナー(GP)に対しては、いわゆる管理報酬の他に、投資利益の一定割合が支払われることが通常であり、海外においては一般的に”carried interest”(キャリード・インタレスト)と呼ばれています。キャリード・インタレストは、海外では、通常、組合利益の分配としての性質を有するものと考えられていますが、我が国においては、従前より、「成功報酬」などとして、GPの業務(役務)に対する報酬として整理されることが多かったものと思われます。

 

日本においてこのような整理がされてきた一つの理由は、所得税基本通達(36・37共-19)(以下「本通達」といいます。)が、投資家の組合事業に係る利益又は損失の額は原則として組合契約等において定められた分配割合に従い認識されるとしつつ、当該分配割合が「各組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有していない場合には、この限りでない」としていることが挙げられます。

 

すなわち、組合契約において定めたキャリード・インタレストに係る分配割合が「経済的合理性」を有するか否かが明確ではなく、結果として課税上の取扱いが不安定になるリスクがあるため、当該リスクを回避するためには、キャリード・インタレストを、組合利益の分配ではなく、報酬として取り扱う必要があったということも、上記取扱いの一因であったものと考えられます。

 

金融庁は、今般、国税庁にも照会のうえ、当該「経済的合理性」等の基本的考え方を明確にし、組合利益の分配としてのキャリード・インタレストについて、組合契約等において定められた分配割合に応じた構成員課税の対象になること(分配される組合利益が株式等の譲渡に基づくものである場合には、所得税法上、株式等の譲渡による所得として分離課税の方法により課税されること)の判定基準をとりまとめ、公表しました※9。以下では、その概要について紹介します。

 

※9 この公表文については、こちらをご参照ください(金融庁HP)。

 

(2)「経済的合理性」等の基本的考え方

 

経済的合理性の判断は、個々の組合について具体的に検討されることとなりますが、例えば、次の要件に該当する場合には、本通達の適用に関して、一般的には経済的合理性等を有しているとして、組合契約で定められた分配割合に応じた構成員課税の対象になるものとされています。なお、以下における「ファンドマネージャー」とは個人を指すものとします。

 

①「組合契約」について

 

(a)組合契約の締結及び組合財産の運用が各種の法令に基づいて行われていること

 

組合契約の締結のほか、その契約の内容や組合財産の運用については、法的な合理性が担保されていることが前提となるとされています。

 

(b)ファンドマネージャーが金銭等の財産を投資組合に出資していること

 

キャリード・インタレストは、投資組合事業への貢献度合に鑑みファンドマネージャーが組合員として受け取る利益の分配であることから、金銭等の財産をその投資組合に出資することにより組合員としての資格を有することが必要であるものとされています。

 

②「利益の分配」について

 

(a)キャリード・インタレストが、組合契約上、利益の分配を規定する条項に定められていること

 

キャリード・インタレストが組合事業から生じる利益の分配としての性格を有することが組合契約上明らかにされていることが必要となります。このため、キャリード・インタレストについては、組合契約において利益の分配(distribution)や配分(allocation)を規定する条項に定められていることが必要とされています。

 

③「経済的合理性」について

 

(a)組合契約に定めている分配条件が恣意的でないこと

 

恣意的な分配条件でないといえるためには、その組合の組合契約はその組合の組合員全員の合意のもとに締結されたものであり、かつ、その組合の組合員は他の組合員と利害の対立する複数の者により構成されていることが必要とされています。ただし、キャリード・インタレストに関する規定について、例えば、ファンドマネージャーとその特殊関係者のみで決定・変更可能であるような場合には、分配条件が恣意的でないとはいえないことに留意が必要とされています。

 

(b)組合契約の内容が、一般的な商慣行に基づいていること

 

例えば、一般的に、一定のハードルレートに達するまで出資割合に応じた分配を行い、これを超えた場合の利益の分配につき、2割をファンドマネージャーに、残り8割をファンドマネージャー以外の組合員に分配するといった内容については、一般的な商慣行であることが示唆されています※10

 

(c)ファンドマネージャーが投資組合事業に貢献していること

 

キャリード・インタレストは、組合事業への貢献度合に鑑みファンドマネージャーが組合員として受け取る利益の分配であることから、ファンドマネージャーが組合事業に貢献しているかどうかが重視され、例えば、ファンドマネージャーが組合事業の投資意思決定に重要な影響を及ぼす権限を有し、組合事業に係る利益を生じさせるために実際にその権限を行使している場合には、投資組合事業に貢献していると考えられるとされています。

 

※10 当然ながら、これと異なる割合による分配方法が一律に否定されるものではないものと考えられますが、どのような場合に「経済的合理性」を有しないと判断され得るかについては、ファンド組成ごとにあらかじめ十分に検討べきと思われます。

 

(3)ファンドスキームとの関係

 

以上のとおり、「経済的合理性」等の内容の具体化が図られたことにより、キャリード・インタレストを構成員課税の対象とするための基準が相当程度明確化されたものということができ、実務的にも歓迎すべき内容と思われます。

 

なお、上記(2)①(b)のとおり、この公表文は、個人であるファンドマネージャーが組合員であることを前提としたものであり、主として、「III 具体的事例」において提示されているような、個人であるファンドマネージャーが「業務執行に関する権限を有する特別なリミテッド・パートナー」として参加しているというスキームを想定したものと考えられます。そのため、この公表文における考え方が、他のスキームを採用するファンドにおいてどの程度妥当するのかについては必ずしも明確ではありません。もっとも、この公表文において提示された個々の判断要素自体は基本的に一般的な内容であるものと考えられますので、他のファンドスキームにおけるキャリード・インタレストの課税上の取扱いを検討する際にも、大いに参考にされるべきものと思われます。

 

2. 国際金融センター構想に関連する他の税制措置

 

(1)特定投資運用業者の役員に対する業績連動給与の損金算入の特例

 

従前より、業績連動型の役員報酬を損金算入するためには、その算定方法について、有価証券報告書に記載することが必要とされていますが、有価証券報告書を提出していない一定の運用会社(特定投資運用業者)※11も、業績連動型役員報酬の算定方法が事業報告書・説明書類に記載され公表されること、その他の一定の要件を満たす場合には、業績連動型の役員報酬を損金算入することが可能とされました※12

 

※11 その事業年度の収益の額の合計額のうちに占める投資運用業に係る収益の額の合計額の割合が75%以上である法人(有価証券報告書提出会社及びその完全子法人を除く。)をいいます。

 

※12 租税特別措置法66条の11の2。もっとも、同規定は、「新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律」と同時に施行されることとされていますので、現時点では未施行です。

 

(2)海外からの高度人材に係る国外財産に係る相続税・贈与税の特例

 

高度外国人材の日本での就労等を促進する観点から、国内に居住する在留資格(出入国管理及び難民認定法別表第1の上欄に定める在留資格)を有する者は、その日本での居住期間にかかわらず、相続又は贈与等により取得する国外財産について相続税又は贈与税を課されないこととされました(従前は、相続開始又は贈与前15年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年以内であることが必要とされていました。)。

 

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西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2004年弁護士登録。2002年慶應義塾大学法学部卒業、2011年ボストン大学ロースクール卒業(LL.M.(Banking & Financial Law))。2012年ニューヨーク州弁護士登録。2011年から2012年まで三菱UFJ銀行米州法務室(在ニューヨーク)出向。現在、西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。投資ファンドの組成を含む金融取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を主要な業務分野とする。

【主な著書等】
『資金調達ハンドブック〔第2版〕』(共著、商事法務、2017年)、『ファイナンス法大全(上)[全訂版] 』(共著、西村あさひ法律事務所、2017年)など

著者紹介

西村あさひ法律事務所 弁護士

2007年弁護士登録。2004年慶應義塾大学法学部卒業。投資ファンドの組成・運用、ベンチャー・ファイナンスその他の各種エクイティ・ファイナンス、アセットファイナンス、不動産ファイナンス、プロジェクトファイナンス、買収ファイナンスなど、各種の金融取引を幅広く行うとともに、金融機関における各種金融関連規制を取り扱う。2018年4月から2020年9月まで、金融庁総合政策局総合政策課において勤務し、資産運用業及びFinTech関連業務に従事。

【主な著書等】
『ファイナンス法大全(上)[全訂版] 』(共著、西村あさひ法律事務所、2017年)、『ファイナンス法大全(下)[全訂版] 』(共著、西村あさひ法律事務所、2017年)など

著者紹介

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河俣 芳治
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