「テールリスク」とは、極めて低い確率で株価が大幅に下落するリスクのことをいいます。今回は、複数のヘッジファンドの戦略を組み合わせて、このテールリスクに備えるヒントを見ていきます。※本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。
世界の株式市場の現状と今後の見方
今回は、危機時のリスク管理としてのヘッジファンド戦略について取り上げたい。
FRB(米連邦準備制度理事会)による粘り強い金融緩和姿勢がゴルディロックス(適温相場)をもたらし、米国株を中心に過去最高値圏で推移している(2021年7月9日時点)。
とはいえ、VIX(恐怖)指数やハイイールド債利回りが大きく低下しているこの適温相場がどこまでも続くという保証はなく、いずれ転換点を迎えるとの市場の懸念は残っているようだ。
2021年3月~4月にかけ、新しいビジネスモデルを取り込み、高い成長を遂げていた英金融サービス会社、グリーンシル・キャピタル(企業間の代金のやり取りを担うサプライチェーンファイナンスを手掛け、2019年の融資額は1430億ドル程度まで拡大)が破産申請を行う可能性があると報じられた(その後、正式に破産申請の手続きを開始)。
また、米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメント(個人資産を運用するファミリーオフィス)のレバレッジ取引を巡る内外金融機関の損失拡大が相次いで表面化した。
これらは、現時点では通常起こり得る一つの破綻事象であり、市場への影響は限定的と想定される。
ただし、クレディ・スイス・グループ傘下の運用会社が、グリーンシルと提携して運用していた証券化商品のファンド凍結が引き金になった点を取り上げ、2007年のパリバショック(2007年にサブプライム関連の証券化商品の混乱を受け、BNPパリバ傘下のファンドが解約を凍結)の連想から先行きに慎重姿勢をとる(特にテールリスクへの対応を重視する)投資家もいるようだ。
加えて、FRB(米連邦準備制度理事会)による先行きのテーパリング(量的金融緩和の縮小)や利上げの動き(米長期金利の上昇を含む)などが2021年後半から2022年にかけての株式市場の変動率を高めるとの見方も根強い。
このような不確実性が見込まれる環境下で、どのような投資戦略やリスク管理手法が考えられるだろうか?
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東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
山一證券、メリルリンチ日本証券、損保ジャパンアセット(現SOMPOアセット)などでの富裕層・法人営業に加え、年金基金、投資信託のアナリストやファンドマネージャーとして新興市場やオルタナティブを含む幅広い市場・商品の担当責任者を経て、2016年に東海東京調査センター入社。
現職では短中期の戦術的資産配分(タクティカル・アセットアロケーション)やオルタナティブ投資(ヘッジファンド・テクニカルやコモディティ戦略含む)の視点を踏まえたグローバルな日本株の市場分析等を行う。他の代替資産・戦略としてJリート投資戦略、ESG投資戦略、行動ファイナンス投資戦略などもカバーしている。
英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA。アライアント国際大学・カリフォルニア臨床心理大学院米国臨床心理学修士号(MA)。慶應義塾大学商学部卒。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、国際テクニカルアナリスト連盟検定テクニカルアナリスト(MFTA)、CFP、英国王立勅許鑑定士(MRICS)、不動産証券化協会認定マスター、中小企業診断士。
日経CNBCなどのTV・メディアに出演。日経新聞、QUICK、ロイター、ブルームバーグ、時事通信、東洋経済オンライン、幻冬舎ゴールドオンラインなどでも執筆、コメントを行う。ヘッジファンド・テクニカルのキャリアとして世界のテクニカルアナリスト協会を束ねる国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)の理事などを歴任。早稲田大学ビジネスファイナンスセンターや同志社大学、青山学院大学等で講師を務める。
著書には投信営業に行動ファイナンスアプローチなどを活用した『会話で学ぶ!プロフェッショナルを目指す人の「投信営業」の教科書』(2021年)がある。
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