原油価格の上昇を受けた、今後の協調減産の動き
WTI原油先物は、米長期金利が低位で安定するなか、ドライブシーズンによるガソリン需要の拡大やOPECプラス(石油輸出国機構とロシアなど非加盟の主要産油国で構成)の閣僚級会合が中止になったことで需給が引き締まるとの見方が強まり、7月6日に一時1バレル=76ドル台を回復した。
OPECプラスは7月5日、閣僚級協議を中止したことで、8月以降の協調減産幅が宙に浮く形となった。当初1日に開く予定だったオンラインの閣僚協議を2日に延期し、週末を挟み5日になっても合意できなかった。次回の会合は未定。
減産縮小とは別に2022年4月までとした協調減産を2022年末まで継続する案が検討されたが、UAE(アラブ首長国連邦)が反対(増産のため、減産の基準となる生産量を引き上げるよう求めた)したことで決裂。
OPECプラスは足元、日量580万バレル相当の減産を実施しているが、8月から12月にかけての減産縮小について、毎月、日量40万バレルずつ縮小(減産規模は日量200万バレル)することでサウジアラビアとロシアが基本合意し、UAEも8月以降の減産縮小には同意していた。
決裂の報道が流れた当初は、合意がなされない限り、8月以降の減産幅縮小が決まらないリスクが意識され、原油価格は上昇。その後は「合意がなされない=OPECプラスの協調減産体制に対する揺らぎ」が意識され、「足並みの乱れ⇒先行きの増産圧力⇒原油価格のマイナス要因」として捉えられ、売られる展開となった。
IEA(国際エネルギー機関)が7月13日に公表した月報で、OPECプラスが減産縮小を巡る協議で合意できず、石油市場の需給が著しく逼迫する可能性があると指摘したことで、再び原油価格の上昇リスクが浮上し買いが入ったが、7月14日にロイターがOPECプラスの関係者は減産の延長を巡って対立していたサウジアラビアとUAEが供給拡大に向け歩み寄ることで一致したと報じたことで原油価格は下落するなど、目まぐるしい動きとなっている。
一方、UAEのエネルギー省は声明を発表し、まだ合意には至っておらず、関係者間の協議が継続していると表明したとも伝わっており、状況は依然として流動的である。
足元、ロシアがサウジアラビアとUAEとの合意に向け、仲介に動いているとみられ、今後も動向を注視したい(7月6日、ホワイトハウスはサウジアラビアとUAEとの高官協議を実施したと報じられており、米国の動向にも留意したい)。
サウジアラビアのUAEに譲歩した妥協を伴う合意でなければ原油には小幅にプラスに働いてくるとみている(反対に妥協を伴う合意の場合は原油価格の下押し圧力として働こう)。
WTI原油先物の投資戦略…70~75ドルでは押し目買い
原油にとって、欧米や中国などの景況指数にピークアウト感がみられることや、変異ウイルスであるインド型(デルタ株)の広がりなどは懸念材料と考えるが、先行きの世界経済の正常化の流れに大きな変化はなく、下値では買いが入りやすいと想定している。
また、6月のイラン大統領選において反米の保守強硬派のライシ師が当選したことで、イラン産原油の禁輸解除には時間がかかると見られる点も、原油価格をサポートする材料になろう。
ESG(環境、社会、企業統治)投資が世界的に広がりを見せるなか、石油メジャーやシェールオイル企業の間では化石燃料への設備投資や増産ペースを抑制する動きもみられ、短中期の供給面は原油にプラスに働いてくるとみられる(一方、脱化石燃料の流れもあり、中長期的には原油の需要および供給ともに低下するとみている)。
当面のWTI原油先物の見通しとして、70~75ドル程度を予想。上値はオーバーシュートも含めて77ドル~80ドル程度を想定し、押し目買い戦略を基本としたい。
中村 貴司
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
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