家族信託の信託契約書は「公正証書」にしておく
家族信託を利用する時には、信託契約書を公正証書にしておきましょう。
公正証書は公証役場で作成します。法律の専門家である公証人が、関連する法律に照らしながら作成してくれる公文書ですので、高い証明力と法的に有効な形式を持ち合わせています。また、原本を公証役場で保管してくれるので、契約書をなくしてしまうリスクも避けられます。
ただし、公証役場では契約する人の意思を確認する聞き取りなどがあります。そのため認知症が進んだ状態では、意思が確認できないとして作成を拒否されるかもしれません。認知症を疑う状態になったら、なるべく早くに信託契約書を作るようにしてください。
「遺言代用信託」は事業承継にも利用できる
財産を家族に預ける「家族信託」について説明しましたが、信託の中には事業承継に有効な「遺言代用信託」と呼ばれるものもあります。こちらは名前の通り遺言の代わりとなるもので、契約によって誰を受益者にするのかを決める働きがあります。
事業承継でこの信託を利用する場合には、まず信託会社と契約を結んで自社株を預けます。この契約により社長が「委託者」、信託会社が「受託者」になるわけです。
信託契約の内容に沿って、現社長が生きている間は株式の権利を現社長に、現社長が亡くなった時には後継社長に与えます。
連載第7回で紹介した九重社長のケースなら、元気なうちは社長に株式の権利を与え、認知症が進んで適切な経営判断が難しくなってきた時には長男に様式の権利を与えるよう、あらかじめ信託契約を結んでおくとよいでしょう。
また、まだまだ検討段階にある信託ではありますが、後継ぎ遺贈型の受益者連続の信託を使えば、次の次の後継者を指定できるという利点もあります。社長にとって、大切に育んできた会社を誰が経営してくれるのかというのはとても心配な事柄です。
ところが、遺言書による相続では、自分の次の後継者は指名できますが、その先については決めることができません。長男の息子がどうにも頼りなく、むしろ長女の息子の方が経営者に向いていると感じられる時も「次の次は、長女の息子に」と指定することはできないのです。
この信託では、信託設定から30年を経過した後に受益権を取得した人までしか指定できませんが、何代も先まで後継者を指定しておくことができます。