対策の中には大きな労力を要するものも多い
人生の終局では健康状態が変わってしまうことも考えておかねばなりません。
これまで解説してきた対策の中には、複雑な手続きや大きな労力を要するものもありました。一方、加齢とともに体力は衰えていきます。認知症やがん、心臓病などの大病を患えば判断力や行動力が大きく損なわれます。
当然、仕事もできなくなっていきますし、日常生活が不自由になることもあります。社長としてバリバリ働いている時とは違う収入源や、介護施設に入所するための資金を用意しておきたいところです。
元気な時には必要性を感じないものですが、「必要性を感じた時には対策を講じるだけの判断力や体力が残っていなかった」というケースが少なくありません。
一定の年齢になったら、老後の準備、相続対策、隠しごと対策をひとまとめにして検討し、とりかかりましょう。
「初期の認知症」と診断された社長のケース
医療品の販売を手がける九重メディカルの九重和夫社長は、少し前から物忘れがひどく不眠症にも悩まされるようになっていた。もしやと思い病院を受診したところ、早期のアルツハイマー型認知症と診断された。
まだしばらくは働けそうだが、進行すれば仕事どころか日常生活も自力では送れなくなってしまう。妻は心配性なので、しばらくはそのことを告げずに一人で対策を進めようと九重社長は決意する。
幸い事業の方は専務として手伝ってくれている長男がいるので、自社株と事業用資産をうまく承継してやれば、九重社長が引退しても問題なく切り盛りしてくれるだろう。
引退後の自分と妻の生活費も、事業とは別に経営している賃貸マンションからの収入で十分に賄える。ただ、アルツハイマーが進めば経営を続けることが難しくなるだろうし、妻や子供たちが財産を相続する時のことも考えなければいけない。
残された時間の中で何をすればいいのか――九重社長は会社の顧問税理士に相談してみた。
[図表]初期の認知症と診断されたケース
この話は次回に続きます。