(※画像はイメージです/PIXTA)

ネットショップの急速な台頭により、価格破壊の危機に直面した「きもの業界」。しかし旧来の流通経路に固執するあまり「問屋依存」から脱却することができず、業界は先細りの一途を辿っていました。そんななか、きもの業界の革命児が推し進めた「三方よし」の商品づくりとはどういったものだったのでしょうか。中小企業が生き残るための「ヒットの法則」を紹介します。

「良いものをつくれば、宣伝なんて…」は大間違い

あなたは、「良いものをつくれば、宣伝などしなくてもユーザーは分かってくれる」と思ってはいませんか? いいえ、それは大きな間違いです。伝えることに注力しなければ、どんなにいいものをつくっても、それは世の中に存在しないのと同じです。商品の質が優れていることは、もちろん大切です。しかし同時に、商品の良さがお客さまに伝わらなければ意味がありません。商品の魅力をいかに伝えるか、これは永遠のテーマです。

 

たかはしのECサイトでは、商品ごとにたくさんの写真やイラスト、そして時には動画も使って説明をしています。また、説明文も、ほかの通販サイトに比べて多いのが特徴です。素材やサイズといった基本情報はもちろん、使い方の説明や製品の特徴、さらに、実際に使っている人や販売者のコメント、そして筆者自身の「この商品をつくった理由」まで盛り込んでいます。

 

ここまで商品説明にこだわるのは、お客さまが少しでも判断しやすくするためです。ECサイトの説明が不十分で購入に必要な情報が得られなかったら、お客さまはインターネットで検索して利用者の感想を得ようとしたり、ネット上のコミュニティで質問したりするでしょう。それはお客さまに、余計な手間をとらせてしまいます。

 

また、不十分な説明で誤解を招き、期待外れだったら、お客さまをがっかりさせてしまいます。こうした事態をできるだけ避けるためには、懇切丁寧な商品説明が不可欠なのです。特に、これまで世の中になかったような画期的な新商品ほど、丁寧な説明が必要です。

 

だからネット上の商品説明は、一回書いたらそれで終わりというものではありません。十分な商品説明を書いたつもりでも、お客さまから見れば情報が足りず、コメントや質問が寄せられるケースは多々あります。そのたびに、より分かりやすいものに変えていくことが必要なのです。商品も販売ページも、常にマイナーチェンジしていくことが大切です。

パンフレット・ウェブサイトの制作はプロに任せる

筆者の会社でパンフレットやウェブサイトをつくるときは、必ず本職のモデルやデザイナー、カメラマンに依頼をします。この業界では、知り合いの女性に安い謝礼でモデルになってもらい、社員が撮影をしてパンフレットなどをつくるケースが多いのですが、これではチープな仕上がりにしかなりません。一方、プロの力を借りれば、商品の特徴をユーザーにより正しく伝えることができるのです。

 

中小企業にとって、コピーライターやモデル、デザイナーなどに多額の依頼費を支払うのは勇気のいることです。しかし、宣伝広告費には十分なお金をかけることが必要だと、筆者は考えています。自社にない力をプロから借り、自社商品の良さをきちんとユーザーに伝える努力が、ヒット商品につながるのです。

 

どれだけやっても〝これでよし〟にはなりません。筆者の会社もまだまだです。でもくさらず「一つひとつ、丁寧に、真心こめて」やり続けるのです。

商品の価値をユーザーに伝える「販売員」の重要性

キモノブラなどのヒット商品を他社にまねされた経験は、これまでに何度もありました。しかし筆者は、模倣品を脅威だとは思っていません。理由は二つあります。


一つ目の理由は、「模倣品は、あくまで模倣品に過ぎない」ということです。同じ生地を使っていても、パターンや縫製のやり方をほんのちょっと修正するだけで、着心地や使い勝手は大きく変わります。試作を繰り返すなかで、細かい部分に徹底的にこだわってつくり込みを続けているのです。ところが、筆者の会社の製品をまねる企業は、見た目をまねするだけ。「神は細部に宿る」といいますが、ディテールの詰めは甘いのです。結局、出来上がった模倣品は、オリジナルの商品に比べて質がかなり落ちているのです。


模倣品が怖くないもう一つの理由は、自社商品を売る「アドバイザー」の存在です。オリジナル商品には、それまで世の中にはなかったようなものがいくつもあります。そうした画期的商品は、最初のうちはなかなか良さを理解してもらえません。その分、丁寧な説明が必要になります。


いくら外見をまねしても、特長や正しい使い方をお客さまに理解していただかなければ、商品は売れません。筆者たちは優秀なアドバイザーをそろえることで、お客さまに商品の価値をきちんと伝えているのです。


アドバイザーは正社員ではなく、業務委託で働いていただいています。全員がほかに本業をもっていて、空いた時間を利用して製品を販売する仕組みです。給与体系は、時給制です。きもの業界の販売員は、販売額に応じて歩合給が得られる仕組みになっているケースが多いのですが、筆者の会社はそういったスタイルではありません。


昔のきものは、典型的な「モノ消費」でした。ほとんどのお客さまは、きものを所有することで喜びを得ていたのです。ところが、そういった考え方はすでに時代遅れです。今後のきものは、着るという体験に価値を見いだす「コト消費」です。ですからアドバイザーには、販売より、お客さまにきものを楽しんでもらう役割を果たしてほしいのです。


筆者の会社のアドバイザーは、そういった筆者の考え方をよく理解してくれています。そして、販売会やショールームなどの現場で、きものを楽しむための提案を盛んにしているのです。つまり、商品は単なるモノではなく、アドバイザーの手によってコトという付加価値を加えているわけです。


自社商品の価値を完璧に理解し、お客さまに「伝道者」のように伝える販売員の価値は、思いのほか高いものです。お取引先も含め、こうした人の育成・確保に、ぜひ力を入れてみてはいかがでしょうか。

 

 

髙橋 和江

有限会社たかはし代表

和装肌着製造メーカー「たかはしきもの工房」代表

きものナビゲーター

衰退産業でヒット商品を生み出す4つの法則

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髙橋 和江

幻冬舎MC

旧態依然としたきもの業界で、赤字経営から脱却。年10%以上のペースで売り上げを伸ばしてきた社長が解説。 古い業界だからこそ風穴は開けられる! 市場縮小が進む業界の状況を打破し、東日本大震災に見舞われながらも、ひ…

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