債券市場全体に関わる問題に改めて焦点
デフォルト急増に伴い、監督当局間の協調が欠如していること、銀行間債券市場(CIBM)と交易所(取引所、EX)で市場が分断されていること、投資家の多様化が進んでいないことなど、以前から指摘されている債券市場全体に関わる問題に改めて焦点が当たっている(IMF・日本証券経済研究所共同出版、筆者監訳『中国債券市場の未来』2020年7月)。
論客で知られる楼継偉元財政部長(大臣)は2020年12月財富管理50人論壇で債券デフォルト急増に触れ、債券市場に存在する根本的欠陥は複数の監督当局がばらばらに市場を管理し市場が分断されていることだとし、信用債はEXに集中させCIBMからは撤退すべきなど、大胆な主張を展開し注目された。
これに対し、現監督当局者や市場関係者は信用債の歴史や実態を無視した暴論と反発、また監督当局間の協調欠如はひと昔前の問題になりつつあると指摘。実際すでに2020年7月、PBCと証券監督管理委員会がCIBMとEXのインフラ相互連携協力について共同公告を発出するなど、インフラ・規制面での債券市場統一化に向けての動きは進んでいる。ただ、実効性の評価はこれからだ。
投資家の多様化については動きが鈍く、現状なお大半の債券(特に国債などの公共債)を商業銀行が保有しているため、デフォルトが起こるとシステミックリスクに繋がりやすいとの指摘がある。中央国債登記結算有限責任公司(PBCが指定したCIBMにおける債券の登記や保管、決済を扱う組織、略称中央結算公司)によると、2020年末、CIBMで商業銀行が国債残高19.4兆元の63%、地方債25.5兆元の85%、国家開発銀行債など政策性銀行債18兆元の56%、企業債29.4兆元の17%を保有している。
なお外国人投資家がCIBMで保有する債券は2021年6月末3.3兆元、大半は国債と政策銀行債で、特に国債が全体の65%だが、CIBM市場の債券残高全体に占める保有シェアは4.3%にまで上昇しており、投資家の多様化に貢献しつつある(中央結算公司統計公報)。
周期的要因だけでなく、「構造要因」にも注視を
諸外国もそうだが一般的には、景気低迷 → 企業の経営悪化 → デフォルト増加・分散化という形で、経済の周期的変化とデフォルトの間に強い相関がある。中国の場合はそれに加え、構造的側面にも注意する必要がある。今回のデフォルト増を次のように長期的視点から、また前向きに捉えようとする市場関係者の指摘が注目される(上海証券宏観研報)。
①政策面
中国の金融システムは長らく規制で保護され、川上に集中し経営が安定している資源・基礎インフラ関連国有企業や、投資でマクロ成長を牽引する不動産業への資金供給が優先されてきた。形態別で国有企業、産業別では不動産企業のデフォルトが増加していることは、政策的に「普恵金融」と呼ばれる、個人営業や零細企業、農民など社会的弱者層への資金供給(国際的にinclusive finance、金融包摂と呼ばれているもの)が促されていること、「三道紅線」が重視されるようになったことなど(『デフォルトする中国企業…「高すぎる格付け」の問題と政策対応』参照)、金融環境の変化を反映。
②産業構造面
中国の産業は改革開放40余年の間、全体として、企業数増加・競争激化 → 企業数減少・競争低下 → 成熟段階へ、また競争で重視される基準が生産量からイノベーションへ移り、規模の経済の重要性が低下していくなどの構造変化を辿っている。その過程で企業経営の二極化が生じ、競争が激しい分野で脱落した企業、資金調達が困難な企業のデフォルトリスクが増大している。構造変化の段階は産業によって異なるが、一般に成熟段階に入る前に企業間の競争とそれに伴う経営の両極分化が激しく、デフォルトが起こりやすい。中国では歴史的にはセメント(2012年)、鉄鋼(2017〜18年)、石炭(2018年〜)と続き、現在は不動産。
③ハイイールド市場発展の可能性
2020年来のデフォルト増加はメディアを中心に情緒的な関心を呼んでいるが、市場自体は大きくは混乱せず、信用スプレッドも全体として安定している。これは、諸外国では成熟した市場だが中国ではなお未成熟なリスクの高い(つまり格付けの低い)ハイイールド債市場が、中国でも一定の専門領域への資金供給ルートとして今後成長してくる可能性を示唆するもの。
次回は『中国債券デフォルトの急増で、不動産業界が陥る「混迷」』で焦点を当てた、不動産業界のデフォルト増加について、2021年に入ってからの動向をフォローする。
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