落語で学ぶ改正民法…「三軒長屋」のストーリー
『三軒長屋(さんげんながや)』
(古今亭志ん朝『志ん朝の落語6』〔筑摩書房、平成16年〕248〜296頁 参照)
三軒長屋の路地口に鳶(とび)(*1)の頭(かしら)である政五郎の家があり、間に質屋の伊勢屋勘右衛門の妾(めかけ)の家があり、一番奥に楠運平橘正友(くすのきうんぺいたちばなのまさとも)の剣術の道場がある。
政五郎の家には、威勢のよい鳶の若者がのべつ出入りし、2階で木遣(きや)り(*2)の稽古をしたり、喧嘩をするなど騒々しかった。喧嘩の際に、出刃包丁が壁に突き刺さり、隣りの伊勢屋の妾の家に先端が飛び出てくることもあった。
楠の道場も、夜遅くまで稽古するなど騒々しかった。震動がひどく伊勢屋の妾の家が大きく揺れ、棚から徳利(とっくり)が落ちたりした。
間に挟まれた伊勢屋の妾の家は女中が一人いるだけであり、静かであった。両隣りが騒々しいので引っ越したいと妾がいうと、伊勢屋は、この三軒の長屋は自分の抵当に入っていて、もう何日か経つと抵当流れで自分のものになる、そうしたら政五郎と楠を退去させると伝える。
女中が政五郎らの退去の件を井戸端で話したので、政五郎の女房に知られてしまう。女房が退去させられることを伝えると、政五郎は、入居する前に入り用の節には速やかに明け渡すと約束したから仕方がないではないかという。しかしながら、今の持ち主ではなく伊勢屋から退去させられると教えられ、政五郎は楠と相談をする。
翌朝、楠は伊勢屋の妾の家に行く。そして、引っ越したいがお金がないので千本試合をする、真剣で勝負することもあり、迷惑をかけるかもしれないので戸締りをしっかりしておいてほしいと伊勢屋に伝える。
伊勢屋は驚き、楠に50両を与える代わりに、千本試合を中止してもらう。伊勢屋は、妾に対し、こちらから退去してくれといえば、楠が要望する立退料を支払わないといけなかったのであるから安く済んだと述べる。
楠が帰った後、今度は政五郎が来訪する。引っ越したいがお金がないので花会を行うが、刃物を使った喧嘩が始まり、迷惑をかけるかもしれないので戸締りをしっかりしておいてほしいと伝える。
伊勢屋は、政五郎の魂胆を見破り、いくら欲しいのかと聞き、50両を与える。どこに引っ越すのかと尋ねると、政五郎は、「あっしが楠先生ンとこ引っ越してってね、先生があっしンところイ引っ越してくんですよォ」。
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【言葉の意味】
*1 鳶…建物の骨組の組立てなどをする職人(火消を兼務)。
*2 木遣り…火消の作業唄。
<まくら>
『三軒長屋』の政五郎は、賃貸人が建物の使用が必要になったら速やかに建物を明け渡すと入居前に約束していますが、そのことを理由として退去しなければならないのでしょうか。
また、売買などにより建物所有者が変更になった場合、入居者である政五郎らは建物賃借権を主張することができるのでしょうか。さらには、伊勢屋が三軒の長屋が自分の抵当に入っていると述べていますが、抵当権にはどのような効力があるのでしょうか。
最後に、伊勢屋の妾が両隣りの騒音に悩まされていますが、政五郎らに対してどのような請求ができるのでしょうか。