「相続人がいない財産」はどうなるのか?落語で解説
『黄金餅(こがねもち)』
(古今亭志ん朝『志ん朝の落語5』〔筑摩書房、平成16年〕144〜178頁 参照)
坊主の西念(さいねん)は、毎日、頭陀袋(ずだぶくろ)を胸にかけ江戸中をもらって歩いていたが、風邪がもとで患いついてしまう。長屋の隣りに住んでいた金兵衛が見舞いに行くと、西念はあんころ餅をたくさん食べたいという。あんころ餅を差し入れた後、自宅に戻り、金兵衛が壁の穴から様子をうかがってみると、西念は、胴巻きに入れていた大量の一分銀と二分金をあんころ餅の餅で包み、飲み込み始めた。金に気が残って死にきれないがゆえの奇行であった。西念は苦しんで亡くなってしまう。西念には身寄り頼りがなかった。
金兵衛は西念の体内に残された金を独り占めしようと画策する。大家を説得し、亡くなったその日のうちに金兵衛の菩提寺で弔いをして、寺から焼場の利用証をもらう。そして、金兵衛は遺体の入った樽を独りで背負って焼場まで運び、胃袋のあたりを生焼けにしてほしいと頼む。焼いた後、金兵衛は金だけをかき集め、骨を放置し、焼き賃も支払わずに立ち去ってしまう。
金兵衛は手に入れた金で目黒で餅屋を始め、繁盛した。
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人が死亡して、相続人のあることが明らかでないときに、民法がどのような手続を定めているのかを、『黄金餅』を例にして解説します。
また、現代の日本において高齢者の孤独死が社会問題になっていますが、建物賃借人が死亡した場合、部屋に残された遺品をどのように処分できるのかについても解説します。『黄金餅』の西念の部屋に残された遺品はどのように扱えばよいのでしょうか。
さらに、残骨灰についても解説します。『黄金餅』の焼場に放置された西念の骨の中に金がまだ残されていた場合、どのように扱われるのでしょうか。