「耐え難い生活騒音」の慰謝料額は約30万円程度
【生活騒音】
(1)慰謝料請求
受忍限度を超える生活騒音に対しては、不法行為による損害賠償請求権(709条)に基づき、慰謝料を請求することができます。
騒音により受けた被害が受忍限度を超えるものであったか否かは、加害者側と被害者側の各事情を総合して判断されます。具体的には、①侵害行為の態様とその程度、②被侵害利益の性質とその内容、③侵害行為の開始後にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果などを総合して判断されます。
『三軒長屋』の場合、伊勢屋の妾は、両隣りが騒々しくて悩まされます。受忍限度を超えるものであったかは、政五郎らの騒音が参考となる規制値を超えるのか、深夜に及ぶのか、騒音の頻度はどの程度なのか(上記①)、妾にどのような健康被害や精神的苦痛が生じていたのか(上記②)、政五郎らとの間で協議がなされ、騒音発生の防止のためにとられた措置の有無など(上記③)により判断されます。
政五郎と楠の騒音を発生させる行為は、両名が共謀して行っているわけではありませんが、場所的・時間的に近接性があり、客観的に一体のものとして関連しあっているため、共同不法行為(719条1項)になります。
したがって、妾は、両名のそれぞれの行為ではなく、両名の共同行為と妾の損害との間の因果関係さえ主張立証すればよいことになります。
慰謝料請求が認められる場合、政五郎と楠は、共同不法行為なので各自が全額の賠償責任を負います(連帯責任)。
認容される慰謝料額は、生活騒音の場合は30万円程度とされることもあり、多くの方が想定されるよりも低額です。仮に30万円なのであれば、妾は、政五郎に対しても、楠に対しても30万円全額を請求できますが、二人あわせて総額30万円を超えて支払を受けることはできません。
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【719条(共同不法行為者の責任)】
1項 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
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(2)差止請求
被害者は、慰謝料だけでなく、生活騒音行為を今後は止めてほしいと請求することもできます。
請求根拠は、人間が本来有する状態で生命・健康を維持しうる権利(人格権)の侵害を理由とする差止請求権です。
慰謝料請求と同様に、受任限度を超えたかが基準になりますが、差止めは加害者の行動を事前かつ直接的に制約するものなので、慰謝料請求よりも厳格・慎重に判断されます。