家賃滞納、建物の破壊…住民は退去させられるのか?
『長屋(ながや)の花見』
(麻生芳伸 編『落語百選春』〔筑摩書房、平成11年〕76〜95頁 参照)
長屋の住人たちは、春のある日の朝、家主から呼び出される。家賃の催促だと思い、お互いがどのくらい滞納しているかを確認しあう。入居時に支払った後18年間滞納している者、父の代に支払ったきり滞納している者、汚い長屋だから家賃が発生しないと思っている者、家賃のことを知らず家主から貰えるものだと思っている者など誰一人として家賃を満足に支払っていない。住人たちは退去を求められることも覚悟する。
家主の家に行くと、家賃ではなく、向島に花見に行く話であった。家主は、世間から貧乏長屋といわれていて景気が悪く、貧乏神を追い払うために計画した。家主が酒と肴を用意したというので、住人たちは盛り上がるが、酒ではなく番茶を薄めたもの、かまぼこではなく月型に切った大根、玉子焼きではなく沢庵であった。
向島への道中、花見に行く格好ではなく猫の死骸を捨てに行くようであるなどと暗い話ばかりするので、家主がもっと明るい話をしろと注意する。すると、昨晩寝ていると天井がいやに明るいと思って見てみたら、きれいなお月さまだったと住人の1人が話し始める。寝たまま月が見えるのかと尋ねられ、ご飯を炊くために雨戸と天井板を剥がして燃やしてしまったので月見ができると答える。
向島に着くと、家主は、酒を飲んでいるかのように盛り上がることを住人たちに求める。「家主さん、近々長屋に縁起のいいことがありますぜ」「湯飲みのなかに、酒柱(さかばしら)が立ってます」。
************