かつては富裕層しか手の届かなかったタワーマンション。今では棟数が増え、一般化してきました。多くの人が住み始めたことで顕在化したタワーマンションの問題点を作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より一部を抜粋・編集して解説します。

「編成は15両で限界」想像を絶する通勤地獄

開発に拍車がかかっていたにもかかわらず、市は、2015年の将来人口推計で、0〜14歳の年少人口はすぐに減ると予測します。2015年に19万900人の年少人口が、2025年には17万2900人に減少と推計したのです。

 

ところが、武蔵小杉の開発が起爆剤になって年少人口は増えます。市は年少人口の推定値を3万人ちかくひき上げました。市内7区で、最も上振れしたのが中原区だったのです。

 

人口見通しの甘さは、横須賀線の武蔵小杉駅を直撃します。当初、JRは1日の利用者数を約18万人と読んでいましたが、数年で約25万人に達し、想像を絶する通勤地獄に陥りました。混雑緩和には増発が有効ですが、朝のピーク時には3分おきに狭いホームに電車が入っており、「編成は15両で限界、増発の余裕はない」とJR幹部は言いきっています。

 

通勤地獄と並んで頭が痛いのが、教育環境の問題です。武蔵小杉の子育て世代は、保育所に入りたくても入れない「待機児童」の問題に苦慮しています。若い母親たちは「保育園の倍率が20倍、30倍。何十箇所申し込んだかわからない」「認可外保育園の月謝は月に15万円もかかる」と悲鳴を上げます。

 

川崎市は、18年4月1日時点で待機児童数18人と発表しました。そのうち15人が中原区内です。数が少ないようですが、これは氷山の一角。

 

希望する認可保育所に入れなくて認可外保育所に入ったり、保護者が育児休業するなどの「保留児童数」は2960人に上ります。川崎市は認可保育所の整備を掲げていますが、武蔵小杉周辺は地価が上昇しており、新しい保育施設の整備は容易ではありません。

 

局所的な人口増は、東京の中央、港、江東、品川の湾岸4区にも負荷を強いています。年少人口の急増に小学校のキャパシティが追いつかず、慌てて整備を進めているのです。

 

日本経済新聞の調査では、湾岸4区が公立小学校の新築・増改築に投じた費用は、2008〜2017年度の10年間で856億円に達しています。それ以前の10年間の22倍に膨らみました。8割の学校が児童数に応じた適切な広さの運動場を確保できていません。学年ごとに屋上や、体育館、校庭に分けて遊ばせる小学校もあります。

 

超高層マンションの建設誘致には多額の公費が注がれています。中央区では、近年、タワーマンション建設を伴う市街地再開発事業に、1地区で80億円前後の「補助金」(国庫負担半分)を投じてきました。

 

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山岡 淳一郎

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建物の欠陥、修繕積立金をめぐるトラブル、維持管理ノウハウのないタワマン……。さまざまな課題がとりまくなか、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃している。廃墟化したマンションが出現する…

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