地政学的にも軽視できないギリシャという国
経済的には、欧州連合(EU)に加盟しているギリシャは、当然ながらEU諸国との結びつきが強い。そしてEUの中でもドイツは、経済規模も最大である上、EUを通じてギリシャに資金を最も貸し付けている国であり、影響力は非常に大きい。
それ以上に、ギリシャを考える上で重要なのは、地政学的な見地である。地理的には、ドイツとギリシャはバルカン半島を経て地続きでつながっている。そして、地中海に突き出たギリシャは、地中海の東西の交易と制海権にとって重要な位置にある。
かつてギリシャ内戦(1947年)時に、米国のトルーマン大統領が、自由主義を支援するドクトリンを表明、ソ連が支援する共産主義勢力からギリシャを防衛したように、東西冷戦下では重要な拠点であった。昨年、ウクライナ内乱にロシアが関与して影響力を強め、欧米対ロシアの対立の場所になったことで、地政学的な重要性が再認識されるようになった。
ギリシャにおいても、万が一、同様の事態が起これば、欧米にとっては国防・軍事上の脅威となり、悪夢の再来としかいいようがない。ゆえに、ギリシャ問題は、単にギリシャ経済や国家財政の話として片付けられるものではないのである。
まだまだ解決していない「ギリシャ問題」
7月7日の国民投票で、EUが求めた緊縮財政案の受け入れを拒否したギリシャだったが、同月13日のユーロ圏首脳会議で、ギリシャ支援協議に関しEU諸国と基本合意に達し、これによりギリシャ債務問題は、ギリシャのユーロ離脱という最悪のシナリオを一時回避した。ギリシャがユーロ離脱となれば、2002年の導入以来、これまで積み上げてきたユーロへの信頼が損なわれる懸念もあっただけに、マーケットにとっては、ポジティブなニュースと捉えられた。
一方で、ドイツ・メルケル首相が厳しい緊縮財政を求めるように、ドイツ議会を中心に、ギリシャの緊縮財政受け入れ・財政赤字削減へのアクションについて、懐疑的な見方をする議員は多い。今年2月、ドイツ議会はギリシャへの第2次金融支援の延長を承認しているが、その際も与党内から過去最多の造反者が出たことは記憶に新しい。
今回の支援協議の過程でも、ドイツ財務省が提案したと言われるギリシャの一時的なユーロ圏離脱案を支持する動きもあったという。EU議会でも、追加の支援を求めるギリシャに対して厳しい批判の声が相次いでおり、ここにも財政赤字の解消に真剣な取り組み姿勢を示してこなかったギリシャへの不信感の根強さを垣間見ることができる。
注目すべきは、今回のギリシャ支援案が、本質的な解決になるかということであろう。2010年以来、この国が財政赤字削減に手をつけてこなかったことに、問題の本質がある。今回の合意が、大規模な国有資産売却・増税・歳出削減を含むことは、赤字の構造に手をつけるという点で評価できるが、年金カットと付加価値税(VAT)増税に加え、財政目標が達成できない場合の「半自動的歳出削減」も含むことから、その執行という高いハードルは残る。
また、今回は財政赤字に関連する支援策であり、ギリシャ経済が、如何に成長するかについては、十分な処方箋を示していない。ギリシャ経済が、さらに悪化の一途を辿り、銀行の破綻懸念や国家債務の支払いが滞るような事態に至るという懸念は、完全に払拭できない状況が続いている。残念ながら、こうした状況は、世界の投資家を不安にさらし続けることに変わりはない。