経済実態と乖離した昨年11月からの「カジノ」化、今回の急落に対する証券監視当局の各種対策・措置などを受け、中国株式市場はやはり「異質」と見る動きが強まっている。本稿では長期的な観点から中国株式市場の抱える課題を整理しておきたい。

中国株式市場の課題はより長期的な問題

今回の株価の急騰や急落は、実体経済への影響は軽微と前回の原稿で記したが、今回の中国株価急落は、長期的な課題を浮き彫りにしている。特に、欧米の市場関係者や投資家にとっては、やはり中国の株式市場は異質なもの、という印象を強めてしまった可能性が高い。そういう意味では、問題は根深いと言える。

 

これまで、中国の市場開放・規制緩和に呼応して、中国への投資を検討し、機会をうかがっていた投資家・運用会社は少なくない。中長期スパンで、世界第二位の経済規模となった中国への投資ウエイトを一定程度確保したポートフォリオを組みたいと、グローバルな投資家が考えることは、当然のこととも言える。昨年11月から開始した、上海・香港間の株式市場の相互開放は、その機運をあと押ししていた。

 

一方で、昨年11月からの中国株式の急騰は、金融緩和で市場に溢れた中国国内の余剰資金が、一度は、不動産市場や信託商品、理財商品等の高金利な商品に流れて込んでいたものの、そうした市場や商品への資金流入が異常すぎたために、当局が規制を強化して、流れが一変したことと裏腹の関係にある。すなわち、資金が不動産市場や理財商品から、株式市場に一気に回帰したことで押し上げられた側面が大きい。そこに、中国の個人投資家たちが、借り入れを梃子にレバレッジを掛け、我先にと投機を拡大させたために、市場は一気に「カジノ」と化した。

 

こうした市場での投資では、経済の動向や企業の成長を予測して、投資をしていくという典型的な投資スタイルが取れないことを意味する。これでは、欧米の市場関係者から、中国の株価を予想するのは「不可能なミッション」で、中国株式市場は「いかなる合理的な計算からも完全にかい離した市場の典型」といった声まで聞こえる(7月29日付米経済誌フォーブス)のも無理はない。彼らは中国の株式市場が先進国の株式市場とは全く異質のものということを再認識させられたのではないか。

 

確かに、中国とは、国家の存立基盤も政治体制も人口も地政学的リスクも、欧米先進国とは異なる国である。しかし、経済も、その運営も、株式市場まで異質な市場と映ってしまうようでは、長期的な足かせになりかねない。

市場経済の大前提である「自由」を確保できるか?

そもそも、これまで、中国のマクロ経済成長率と株式市況の間には、残念ながら、あまり相関関係が認められるものではない。この基本的背景には、慢性的に実体経済の伸びを大きく超えるマネーが供給される過剰流動性の下、行き場を求めるマネーが、その時々に応じて、株式市場はもとより、不動産市場、高金利・高リスクの信託商品、さらには書画骨董の類にまでと資金が大きく揺れ動き、それらのボラティリティが極めて高いという状況がある。

 

 

行き場のなくなった過剰流動性資金が株式市場に流れ込み、実体経済とは乖離して急騰し、バブル的現象を引き起こしては、その後急落低迷するという事態が繰り返されるようであれば、マクロ経済の成長のために適正に資金配分機能を果たすという、株式市場本来のありようも問われる上に、まともな投資家は入ってこなくなるだろう。

 

また、急落時に、中国の証券監視当局が取った「対策」にも、違和感を覚える市場参加者は多かったであろう。人民銀行による利下げのほかに、当局は、空売り規制、信用取引の拡大、証券会社の株式購入による株価下支えなどの対策を講じたほか、大株主や経営幹部に6カ月間持ち株の売却を禁じるなどの措置をとった。メディアに対してすら、「暴騰」や「崩壊」といった言葉を使わずに公式発表を適切に報道するよう通達を出し、報道規制ともいえる措置を引いた。IMFですら、それらの措置を異例視し警告したほどである。

 

そもそも、市場や市場経済とは自由であることを前提としている。そして、自由を担保するためには、情報公開や規制緩和が要求される。そうした市場に、中国政府がどのように向き合っていくのかという本源的な問題をも、今回の出来事は改めて提起しているといえよう。

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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