ギリシャ政府の政策実施能力には疑問符
ギリシャ政府は8月20日に償還を迎えるギリシャ国債34億ユーロ(約4700億円)を、期限通り、欧州中央銀行(ECB)に償還した。
7月に、欧州連合(EU)とギリシャの間で、ギリシャの緊縮財政移行と引き換えに債務問題への金融支援策が合意されたあとは、ギリシャ議会での、緊縮財政案の可決、第1弾となる130億ユーロの金融支援の供与実施と、ESMによる今後3年間で最大860億ユーロ(約11兆9000億円)の支援決定と、一見、順調である。
しかし、現チプラス政権が、EUとの合意を、政策として確実に実行していけるかどうか、実行力が問われている。与党の支持基盤は、国民投票を「No」に導いた急進左派連合(SYRIZA)である。支持基盤の民意に反するような「痛みを伴う」政策を実施していけるのか、疑問が残るといわざるを得ない。EUと合意した金融支援の引き換えに合意した緊縮財政策の法律化する議論の過程で、チプラス首相率いる与党急進左派連合内での対立は激化し、半ば分裂状態に陥っている。
早速、この記事の執筆時点で(日本時間8月21日未明)、ギリシャのチプラス首相が、パブロプロス大統領に辞表を提出し、早期の総選挙実施を要請したニュースが飛び込んできた。
チプラス首相の「望んだ合意を得られたわけではないが、現状では最善のものだ」との訴えは、如何に急進左派連合内の対立が深まっているかを物語る。「自分の行ったことに対し、国民の審判をあおぐ道義的責任が今の私にはある」とのコメントは、選挙で、現政権の政策継続を望むかどうかを争点に、国民に決断を迫り、選挙に勝利して、政権基盤を強化したいとの狙いが見え隠れする。
だが、選挙の実施は、9月20日の予定で、それまで、また政治的な空白が生まれかねない。万が一にでも、政権が倒れたり、安定政権が樹立できない事態となれば、EUとの合意実施も危うくなりかねない。チプラス氏は今年1月に実施された総選挙で急進左派連合を率いて、勝利し首相となった。在任はまだ1年にも満たない。
政権成立後1年足らずで、総選挙に打って出る必要が果たしてあるのであろうか? やっとのことで支援策をまとめたEU諸国、中でもドイツ・メルケル政権は、この状況を、苦々しく見ているのではないだろうか?
日本にとって「明日は我が身」の出来事?
ギリシャ問題は、また、他のEC諸国、特に債務割合の大きな周縁国にも財政赤字と不況という問題があることを浮き彫りにする。欧州連合内でも、強力な産業競争力を背景にドイツやイギリスの景気回復は顕著である反面、周縁国は不況にあえいでいる。
経済の低調は、税収不足などを通じて、財政赤字の拡大につながりかねず、財政赤字問題の深刻化を招きかねない。欧州での南北格差は、拡大し続けており、信用不安の火種は、残念ながら燻ぶったままである。ちなみに、財政赤字の問題には全く手がつけられておらず、持続的な経済成長路線も示されていないという、
本質的な問題は、対岸の火事ではない。中長期的には、ギリシャをはるかに上回る財政赤字を抱える日本の潜在的な問題でも繋がっていることを忘れてはならない。そして、筆者は、今年の初めから指摘していることだが、本年後半は「クレジット懸念」が、世界経済全体そしてマーケットのリスク要因であり続けると考えている。要注意である。