新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛への呼びかけにより、宅配便等として生活を支える「物流」の重要性が再認識されましたが、物流ネットワークの重要性は、震災や豪雨といったトラブルが起こるたび注目を集めます。一方で物流は、まるで心臓から押し出される血液のごとく、景気の状況によって勢いに大きな変化が起こります。本記事では「物流」の歴史を紐解きながら、物流会社が社会で果たす役割や使命について見ていきます。

国土交通省が打ち出した「モーダルシフト」の行方

2006年、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」、通称「省エネ法」が施行されました。これにより、貨物の輸送量が一定規模を超える、全国約800社が特定荷主の指定を受け、輸送に係るエネルギー使用合理化の計画書や定期報告書の提出が義務付けられました。


そこで改めて提言されたのが「モーダルシフト」の推進でした。

 

モーダルシフトとは、トラックをはじめとする自動車による貨物輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することをいいます。

 

モーダルシフトの考え方は、実は1980年代から存在しており、運輸省(現・国土交通省)は1991年からその取り組みに着手してきました。1997年9月に開催された「地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議」では、2010年までに500キロメートル以上の鉄道および船舶による雑貨輸送の比率を50%まで引き上げるという方針を決定しました。ただし、モーダルシフトは思惑どおりには進まず、鉄道および船舶による雑貨輸送の比率も1998年の42.9%をピークに、徐々に低下していました。

 

モーダルシフトがうまく進まなかった大きな理由は、日本の産業構造の変化にあると、国土交通省は分析しています。

 

製造業を中心とした国際分業の進展に伴う生産拠点の海外展開が進むなかで、国際物流の動向とともに、日本国内の貨物輸送が変化してきました。

 

例えば、機械や、食料工業品・日用品等の輸送量が大幅に増加してきたが、これらは少量多頻度輸送であることが多く、内航海運よりも自動車で輸送されるため、自動車の輸送量の増加につながりました。

 

その一方で、大量輸送を必要とし、内航海運の主要輸送品である鉱産品、石油製品、セメントなどの輸送量は横ばいとなり、貨物鉄道についても、主な輸送品目であったセメント・石灰石等の輸送量が大幅に減少しました。

 

そのほかに、「ジャスト・イン・タイム」という新たなニーズに対応する意味でも、少量多頻度輸送の必要性が高まり、荷主企業は極力無駄な在庫をもたないサプライチェーンマネジメントを進め、結果的にリードタイムが短く少量多頻度の輸送に適している自動車が、主役となり続けてきました。この傾向は、現在においても変わりません。

 

モーダルシフトは、ともすれば運送業界に大きな打撃を与えるように思えるかもしれませんが、国内における貨物輸送の9割はトラックなどの自動車によるものであり、運転手が足りずモノが運べないような状況も起きてきたため、その一部を緩和するという意味においては、物流業界として歓迎すべき方針であったかもしれません。

 

 

鈴木朝生

丸共通運株式会社 代表取締役

 

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※本連載は、鈴木朝生氏の著書『物流の矜持』(幻冬舎MC)より抜粋・再編集したものです。

物流の矜持

物流の矜持

鈴木 朝生

幻冬舎

大正3年、まだ大八車や馬車が物流の主な手段だった時代から、地域とともに歩み、発展を遂げてきた丸共通運。その歴史から、物流業界の変遷、日本の発展を振り返る。 丸共通運は大正3年に創業し、まだ大八車や馬車が物流の主…

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