(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍による外出自粛要請で、宅配便の重要性が再認識されることになりましたが、日常インフラともいえるこのサービスが誕生・浸透した背景には、オイルショックがあったことをご存じでしょうか。景気の浮き沈みに伴走し、日本経済を支え続ける物流業界の歴史を紐解いていきます。

オイルショックで生み出された、大和運輸の「宅急便」

コロナ禍において、マスクの買いだめによる品薄状態が起きましたが、1970年代のオイルショックに際しても、「石油の供給が途絶えれば、物流も止まり、日本がモノ不足になる」というのをマスコミが喧伝した結果、パニックが起き、日本全国のスーパーでトイレットペーパーや洗剤が買い占められました。それに伴い、便乗値上げをする小売業者も現れたといいますから、いつの時代も同じです。

 

オイルショックが運送業界に与えたダメージは甚大なものでした。

 

ガソリンの高騰による利益の減少はもちろん、全国的な不況により輸送需要が大幅に減りました。1975年までに中小の運送業者がいくつも倒産し、大手であっても倒産寸前までいった会社が複数あったようです。

 

大手の大和運輸(現在のヤマト運輸)も、倒産ぎりぎりに追い詰められた業者の一つでした。東西をつなぐ東海道路線「ゴールデンルート」への参入に乗り遅れて以来(『【物流業界の歴史】西濃運輸・福山通運・日本運送に大和運輸が参戦!東海道路線の覇権争い』参照)、目立った拡大ができずにあがいていましたが、オイルショックにより大口貨物が激減、売上も前年比25%減となり、いよいよ経営が危ぶまれていました。職場では、出勤しても仕事がないため、社員たちが草むしりやキャッチボールをする有様だったといいます。

 

この苦境にあたり、1971年に社長となった小倉昌男氏は、起死回生の新たなアイデアをつかみます。それまでの運送業界では、「小口荷物は集荷・配達に手間がかかり採算が合わない。大口荷物を扱わねば事業は大きくならない」というのが常識でした。

 

小倉氏はその常識を疑い、「小口荷物のほうが1kg当たりの単価が高いのだから、たくさん扱えば収入が多くなるのではないか」と考えました。当時、個人でモノを送るには郵便局に荷物を持っていく必要がありました。その受付も重さ6kgまでで、それ以上は自分でしっかり梱包し、荷札をつけたうえで国鉄の駅に持ち込まねばなりませんでした。そうした手間に、小倉さんはビジネスチャンスを見いだしました。

 

そして1976年、社運をかけてスタートしたサービスが「宅急便」でした。

 

サービス開始初日には、たった11個の荷物しか集まらなかったそうですが、その後5年で年間5000万個まで増え、事業は軌道に乗りました。現代の生活に欠かせない物流インフラの一つとなっている宅急便は、オイルショックによる経営危機をきっかけとして生まれたのです。

物流業界を「強制アップデート」した歴史的事象

第四次中東戦争に端を発する「オイルショック」が運送業界に与えたダメージについて、歴史歴な事象から掘り下げてみましょう。


OAPEC(アラブ石油輸出国機構)10カ国は、戦争を理由に月5%ずつ石油生産を削減、アメリカなど非友好国に対しては全面禁輸、日本など中立国には輸出量の削減を通告するとともに、原油公示価格の70%引き上げを実施しました。


1974年1月にかけ、原油価格は4倍にまで上昇。エネルギー資源の主役を石炭から石油へと移し、そのほぼすべてを輸入に頼っていた日本経済は大打撃を受けました。ここで日本の経済成長は、戦後初のマイナスに転じました。長らく続いてきた高度経済成長期が、ついに終焉を迎えたのです。

 

混乱する日本社会に対し、政府は緊急石油対策推進本部を設置、次のような「石油緊急対策要綱」を閣議決定しました。


*消費節約運動の展開

*石油・電力の10%使用節約

*便乗値上げ、不当利得の取り締りと公共施設等への必要量確保

*国民経済および国民生活安定確保のため必要な緊急立法の提案

*総需要抑制策と物価対策の強化

*エネルギー供給確保のための努力


そしてこの閣議決定をもとに、石油の節約を国民に要請。産業用石油の消費抑制、電力の使用規制や自動車使用の自粛、交通機関の石油消費の抑制、バーやキャバレー、百貨店などの営業時間の短縮、はては深夜テレビや広告塔の時間短縮まで、さまざまな分野で石油消費を抑えるよう指導しました。

 

また、要綱に基づく緊急立法として「国民生活安定緊急措置法」と「石油需給適正化法」という「石油2法」を公布、実施しました。

 

その概略については、ENEOS株式会社のウェブサイトのコンテンツ「石油便覧」(https://www.eneos.co.jp/binran/)でわかりやすくまとめられており、引用させていただきます。

 

【国民生活安定緊急措置法】

 

本法は、物価高騰そのほかの日本経済の異常な事態に対処し、国民生活の安定と国民経済の円滑な運営を確保するため、生活関連物資等について、価格の安定および需給の調整に関する緊急措置を定めたもので、物価安定立法としての基本的性格を有するものである。

 

物価が高騰し、あるいは高騰する恐れのある場合、政令で、その生活関連物資を指定し、指定物資の取引の標準となる品目(標準品目)について、遅滞なく標準価格が定められることとなっている。このほか本法では、特定標準価格の設定や、供給の物量的不足に対処するための生産、輸入、保管等に関する指示や、当該物資の著しい供給不足の場合の配給や割当などが規定されている。

 

【石油需給適正化法】

 

本法は、日本への石油の大幅な供給不足が生ずる場合に、石油の適正な供給と石油使用を節約する措置を講ずることにより、石油の需給を適正化することを目的としている。石油業法に基づく石油供給計画が平常時における需要・供給のバランス維持を目的としているのに対し、本法は国際的に不測な事態の発生等による緊急時対策が目的である。本法は、政府が閣議決定のうえ、本法に定める措置をとる必要のあることを告示することにより発動される。これを「緊急事態宣言」といい、本法施行と同時に告示された。

 

本法発動時、通産大臣には、次のような権限が与えられている。

 

*精製業者等への石油の保有や石油売り渡しの指示

*精製業者等からの報告徴収および立ち入り検査

*消費者に対する石油使用制限

*ガソリンスタンド業者に対するガソリン販売量の制限等

 

そして、これらの指示に従わない場合には、罰則の適用や、その旨の公表による社会的制裁の措置がとられることとなっている。

 

なお、石油2法は時限立法ではなく恒久立法として制定され、緊急事態が発生した場合にはただちに発動できる、現在も有効な法律です。ちなみに2020年5月には、消毒用アルコールの転売問題などを背景に、「国民生活安定緊急措置法施行令の一部を改正する政令」が行われています。

 

 

鈴木朝生

丸共通運株式会社 代表取締役

 

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※本連載は、鈴木朝生氏の著書『物流の矜持』(幻冬舎MC)より抜粋・再編集したものです。

物流の矜持

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鈴木 朝生

幻冬舎

大正3年、まだ大八車や馬車が物流の主な手段だった時代から、地域とともに歩み、発展を遂げてきた丸共通運。その歴史から、物流業界の変遷、日本の発展を振り返る。 丸共通運は大正3年に創業し、まだ大八車や馬車が物流の主…

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