コロナ禍により、私たちの日常は大きく変化しました。なかでも「物流」はその最たるものであり、人々は、細かな日常生活用品までも、配送サービスを頼るようになりました。しかし、物流のありようが大きく変化したのは今回が初めてではありません。記憶に新しいところではバブル崩壊の頃、経済構造が重厚長大型から軽薄短小型へ転換したタイミングです。物流業界はその当時も、様々な変革があったのです。

「人も車も足りない!」バブル景気に沸いた物流業界

昭和という激動の時代が終わりを告げた、1989年。日本経済はバブル景重厚長大型気に沸き、日経平均株価が3万8915円の史上最高値をつけました。

 

この好景気の発端となったのは、1985年の「プラザ合意」です。

 

当時、貿易赤字に悩むアメリカは、為替相場をドル安にして輸出に有利な状況をつくり、貿易赤字を改善させようと、先進5カ国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ)の財務担当者をニューヨークのプラザホテルに集めて会議を開催しました。そこで各国はドル高の是正で一致し、「プラザ合意」に至りました。

 

しかし合意後、日本政府や日本銀行の想定をはるかに超える速さで円高が進行し、円高不況が訪れます。それに対し日本銀行が徹底した低金利政策を続けた結果、空前の「カネ余り」となり、余剰資金が株式市場になだれ込みました。

 

そうして不動産を中心とした資産の価値が上昇した結果生まれたのが、実体経済を伴わない、泡のような景気でした。

 

バブルの時代、物流の現場は著しい人手不足に悩まされました。明日働く人がいない、明日の車が足りない…。どの運送会社もそんな状況でした。運賃も、10%、20%という値上げ幅でどんどん上がっていきました。荷主である企業も儲かっているので、値上げがすんなり受け入れられる状況でした。

約10年で交通事故が2倍に!「自動車普及」の功罪

好景気を背景に、自社での自動車整備工場の保有を進める会社も出てきます。理由は、故障の予防や安全対策にあります。法定点検とは別に、独自に定期点検をすることが、事故の予防につながるからです。

 

日本では、1950年代から自動車の数が急激に増加し、モータリゼーションの時代を迎えました。それに伴い、交通事故の数も急増し、1958年に8200人であった年間の交通事故による死者数は、1960年で1万2000人を超え、もっとも交通事故が多かった1970年には1万6765人に達しました。

 

そこで交通事故をいかに減らすかが社会課題となり、1970年に交通安全対策基本法が成立、それに基づいて1971年から交通安全基本計画が作成されるようになりました。

 

現在では2016年に作られた第10次交通安全基本計画が実施されています。物流業界においても交通事故は極めて重要な課題の一つであり、その予防に力を入れてきました。

 

車を運転するのが人間である以上、事故を100%防ぐことは残念ながらできません。しかし、例えば車両故障による事故など、事前の対策で予防できる部分も多くあります。

 

自社で整備工場をもつと、建設費用や整備専門の従業員の人件費といったコストがかかりますが、中長期的に見ればコスト面でも経営に貢献します。

 

トラックは年1回の法定点検が義務付けられており、飼料運搬車やタンクローリー車には一般の法定点検とは異なる特殊な点検が必要になりますから、車検費用は一般車よりもはるかに高くなります。トラックの数が100台を超えるような場合は特に、かなりの固定費が発生します。それらを抑えられるメリットは、初期投資の額をはるかに上回ると筆者は考えています。コスト削減の分を料金に反映し、顧客に還元できれば、競争力も上がります。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

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※本連載は、鈴木朝生氏の著書『物流の矜持』(幻冬舎MC)より抜粋・再編集したものです。

物流の矜持

物流の矜持

鈴木 朝生

幻冬舎

大正3年、まだ大八車や馬車が物流の主な手段だった時代から、地域とともに歩み、発展を遂げてきた丸共通運。その歴史から、物流業界の変遷、日本の発展を振り返る。 丸共通運は大正3年に創業し、まだ大八車や馬車が物流の主…

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