資産家のなかには、資産分散の一環としてアメリカ不動産を保有している方も少なくありません。しかし、万一の事態が発生した場合、日本とは相続手続きが大きく異なる点に留意が必要です。特筆すべきは「プロベート」という特殊な手続き、そして「遺産税」の存在です。これらを理解していないと、相続人たちが大変な思いをすることになります。国際法務に精通する、中村法律事務所の中村優紀代表弁護士が解説します。

遺産分配の手続きは、現地の弁護士への依頼が必須

日本人が個人としてアメリカ不動産を購入後に死亡した場合、アメリカの相続制度が適用されること、そしてアメリカにはプロベートという日本にはない特殊な相続手続きがあることについては、『ここまで大変とは…「アメリカ不動産の相続」を弁護士が解説』で詳述しました。

 

本記事では、このプロベートの概要、そして相続では避けて通れない遺産税について解説します。

 

プロベート(Probate)とは、アメリカに所在する不動産、銀行口座、証券口座、動産その他の遺産を分配するための裁判申立て手続きのことをいいます。日本では相続人間の話し合いだけで遺産分割ができますが、アメリカではそれとは異なり、裁判所手続きを経て遺産を分割することに特徴があります。これを「管理清算主義」といいます。

 

プロベートを申し立てる主体は相続人です。ただ、裁判手続きになるため、現地で弁護士を起用し、代理人として申し立てをしてもらうのが通常です。

 

アメリカで弁護士を探せばいいのね、と軽く思われるかもしれませんが、そもそもアメリカの弁護士の費用は日本の弁護士に比べてとても高額なので注意が必要です。

 

なお、アメリカの弁護士は日本よりも専門分野の棲み分けが細かいため、プロベート申立てを取り扱う弁護士が現地ですぐ見つけられるとは限りません。

 

特に、日本の相続人が関わっているということで、国をまたいだ手続き・やりとりに不安を覚えて受任を躊躇するアメリカの弁護士もいます。そのようなときは、日本で英語対応な弁護士を中継役として立てて、そこを情報のハブとして現地の弁護士とコミュニケーションをとっていくことをお勧めします。

 

このやり方であれば、日本の相続人、アメリカの弁護士双方にとってストレスなくやりとりができ、安心に手続きを進めることができます。

プロベートの申立ては、どのような手順で行われる?

プロベートの申立て先は、基本的には被相続人が居住していた地を管轄する家庭裁判所になります。裁判所の名称は「Surrogate's Court」や「Probate and Family Court」と呼ばれていて、各州により異なりますが、プロベートの手続き内容自体はどの州もほとんど同様です。起用するアメリカの弁護士も、当然ですが、現地州で資格を有している弁護士に依頼することになります。

 

申立てがされるとまず、裁判所は遺産を管理する人格代表者(Personal Representative、略してPR)を選任します。被相続人は亡くなっていて、遺産の帰属主体とはなりえないため、代わりにPRが当該遺産を管理する主体となります。

 

これは、日本の破産手続きにおいて、破産管財人が破産開始決定時に選任され、破産者に代わって破産財団に属する財産の管理及び処分をする権限が付与されるのと同様に考えると分かりやすいかと思います。

 

PRの役割は、遺言があるか確認し、相続人の範囲を確定し、相続人間に遺産に関する紛争があるか調査するだけではなく、遺産の種類、金額、負債の有無についても調べます。そして、遺産から負債、費用が支払われ、遺産税(相続税)を納めて、残額が初めて相続人に分配されることになります。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

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