社員の無断欠勤は社長の責任は本当か
とはいえ、これがなかなか難しい。セミナーにおける運営スタッフ、つまり先輩経営者たちは受講者を問い詰めたり、追い詰めたりせず、いかに本人に気づかせるかという方向に誘導していくのだと聞くが、それでも納得しきれない人がいるという。
ある同友会関係者によると、セミナーに出席する経営者のうち、修了までに至るのは7割から8割だという。相当の覚悟を持って臨んですらこの数字だから、かなり心理的にクリアするのが難しいセミナーであり、虚心坦懐にならなければ簡単には納得しがたい同友会の理念なのである。
だが、ここでは脱落する人を云々するのはやめよう。これまで考えもしなかった「社員は最も信頼できるパートナーである」などといった価値観を受け入れ、精神面をも含め経営を基本から学びなおしつつ、自社の経営指針をつくりあげようと粘り強く挑戦する。そうした経営者が、それだけの割合いることに感心すべきであろう。
IPO(株式公開)により手っ取り早く金儲けしようという、起業家というよりは錬金術師のような人たちが増えている時代であるからなおさらである。
受講者たちは運営スタッフであり、先輩経営者である人たちとの丁々発止のやりとりの末に、これまでも何度か紹介してきた綜合パトロールを経営する笹原氏のケースのように、
「俺の会社だと思いこみ、とにかく焦って金儲けをしようと思っていた自分を反省し、警備員として雇った人が無断で欠勤し、遅刻するのは、経営者である自分への信頼が欠如しているからなのだ。逆に言えば、自分の彼らへの信頼感のなさが、そういう事態を生み出しているのだと気づかされたのです」という認識へ至る。
多くの経営者が経営指針成文化セミナーを通して、同じような気づきを経験することになる。
縄文時代以来、長く「ムラ社会」を生きてきた日本人は集団の中にあってこそ安心して生きていられる。会社という組織においても同様である。
社長だけが突出して、社員が置いてけぼりにされている企業では、安心して働けないのだ。いつクビになるかわからないような会社などもってのほかである。
逆に経営者と社員が信頼しあい、手を取り合って前進していく企業こそ、日本的組織であり、企業体としての強みを発揮できるのだと言ってよい。
つまるところ経営指針成文化セミナーを通して、受講者たちは日本的風土に即した経営、企業づくりに気付くということでもある。
結果、鋤柄氏が語るように、「だからこそ、こうした厳しい時代に真面目に勉強する同友会会員が着実に増えているのです」ということにもなる。
実に中小企業家同友会は経営指針成文化セミナーを入り口にした「経営者の学校」であり、「経営者の道場」なのである。
清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー