(※画像はイメージです/PIXTA)

経営者は何のために企業を経営しているのでしょうか。会社は社長のものか、社員のものか…、誰のものかという根源的なテーマに対して何度も自問自答を繰り返し、人間性を磨いていきます。経営者はどのように変わっていくのでしょうか。※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

労働組合の発足で裏切られた思いが

驚天動地。このことが経営の大きな転機となった。鋤柄氏ら経営陣はボーナスの件も含め従業員のために良かれと思って経営してきたこともあり、裏切られたとの思いも抱かないではなかった。

 

だが力ずくで労働組合と対抗するのではなく、自分たちの経営者としての力量を高め、組合としっかり向き合おうと決意した。会社が順調に成長する過程で、自分たちが自身の姿を見失い、社員の心と離れていったとの反省もあったからだ。

 

そこで社長と2人、学びの場を求めて様々な経営者団体に加入した。そうしたおりに鋤柄氏が目にしたのが、地元の愛知中小企業家同友会が「経営指針」の成文化運動を行っているとの新聞記事だった。

 

鋤柄氏はすぐに入会手続きをとった。愛知同友会は1962年に名古屋中小企業家同友会として発足、東京、大阪に次ぐ歴史を有している。会員数は現在、北海道に次いで全国第2位を誇る。

 

ここで鋤柄氏は修羅場をくぐり、経験豊富な多くの経営者に出会い、同時に同友会内に蓄積されている意見や見解などを学ぶ中から、対労働組合問題だけでなく、様々な経営課題への対処策や経営者のあり様について学習することになる。

 

ことに鋤柄氏が刮目させられたのは75年に中同協が発表した「中小企業における労使関係の見解」、すなわち「労使見解」であった。「労使見解」には「経営者の姿勢はいかにあるべきか」を第1項、「労使は対等」とする第2項など、8つの主要論点があるのだが、鋤柄氏が何よりも注目したのは「社員を最も信頼できるパートナーと考え、高い次元での団結を目指し、ともに育ちあう教育を重視する」という考え方だった。

 

この時点で愛知同友会は、「中小企業はまず、資金や利益といったお金のことを先に整備しなければならない」という考えが主流だったが、鋤柄氏は中同協の考えのほうが理にかなっていると考えた。氏は以降、「労使見解」を「自らのバイブルのように扱い、さまざまな場所で紹介している」と、先の『経営者を叱る』で記している。

 

鋤柄氏は91年にエステムの2代目社長に就任、先代社長時代に定めた自社の経営指針を数年間かけて幹部社員とブラッシュアップするとともに、「三つの目的」など同友会の基本理念を自社の経営指針と経営に落とし込んでいった。

 

鋤柄氏は、幹部、社員との意思疎通を密にし、一方で社員の定期採用をスタートさせるとともに、教育をさらに充実させる。その中で、業績は一段と拡大していく。従業員数だけ見ても、2017年10月時点で419人(出向、派遣等を含む)に達しており、事業拠点も愛知県など東海地方だけにとどまらず、北海道や新潟県にまで及んでいる。

 

ちなみに17年9月期の売上高は47億4000万円、資本金7000万円である。成長力を示す数字だけでなく、経営体質を見ても自己資本比率はほぼ50%に達する。しかも現在の社長(4代目)塩﨑敦子氏は定期採用した一期目の技術者出身で女性というように、先進的企業に変貌している。

 

鋤柄氏は社業の一方、同友会活動にも力を入れ、1995年に愛知同友会代表理事となり、2000年にエステム会長となると、翌々年の02年には中同協幹事長に就任、さらに07年から16年まで会長を務めた。それだけに全国各地で、同友会が推進する活動に関わって、講演や相談に乗った経験を豊富に有する。

 

 

清丸 惠三郎

ジャーナリスト

出版・編集プロデューサー

 

 

 

※初出:清丸惠三郎著『小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月11日刊)、肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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