経営者に問う「何のために経営していますか?」
ただこの経営指針成文化セミナーの厳しさは、実はいま述べたことだけではない。かつて千葉同友会の代表理事を務め、このセミナーの第1回の受講生だった笹原繁司氏は、数年前、埼玉同友会の経営指針成文化セミナーで次のような体験談を披瀝している。
笹原氏は北海道出身で、石川島播磨重工業(現IHI)社員や劇団員など多彩な職歴を経て、1991年に松戸市で警備会社綜合パトロールを立ち上げたという、パワー溢れる、ある種、立志伝中の人物である。
96年に同友会に参加した笹原氏は、いろいろな経歴の人が交じっていて、無断で休んだり、平気で遅刻してきたりする警備員たちを、同友会で学びたての委員会活動により会社の求める人材に鍛えなおそうと懸命に取り組むが、全くうまくいかなかった。そこで悩んだ笹原氏は、千葉同友会の経営指針成文化セミナーに参加する。以下、笹原氏の言葉を一部補いつつ記す。
「まず、『何のために経営していますか』と聞かれ、(お金でしょう、食うためでしょう)と思い、次に『どんな会社にしたいですか』と聞かれ、(俺がどうしようと大きなお世話だろう)、変なことを聞くセミナーだなあと思いました。
『あなたにとって社員とは何ですか』社員? 給料払っているんだから仕事するのは当たり前だろ! そう思っていましたが、あらためて何のための会社、誰のための会社…と自分なりに考えてみました。
やがて『俺の会社だ』、単純にそう思っていた自分に気付いたような気がします。とにかく焦ってお金儲けしようと考えていました。(社員が自分の考えるように働いてくれないのは、経営者である)自分に(原因が)あるなんて考えたこともありませんでした」
「自分に原因がある」という笹原氏の気付きについては後段で触れることにして、4月27日に八千代市市民会館に集まった人たちも、このあとの講座で笹原氏が問いかけられたのと同様に、「あなたは何のために会社を経営していますか」「どんな会社にしたいですか」、あるいは「あなたにとって社員とは何ですか」といった、根源的でそれゆえ単純な儲け主義や拡大主義に立っていては簡単には答えられない、経営哲学と関わるような問題を突きつけられていくことになる。先に述べた厳しさとはまさにそのことである。
この日の運営スタッフの一人で、柏市で夫人とともに「うさ坊」という趣味の工房を営んでいる星野哲氏は、サラリーマン時代に経理事務、コンピューターシステムを熟知するポジションを経験、その後入社した会社では、5年にわたり民事再生の業務を体験した。
企業の強み弱み、経営者の問題点を熟知する星野氏から見ると、受講者には次のような傾向があるという。「女性は現実的で、利益というか、数字に目がいきがちです。対して、男性は理想というか、ドリームを追いがち。現実との間にある狭間に落っこちて、つまずくことが多いように思います」
そこを見極めながら、地に足がついた企業づくり、理念づくりに向けてアドバイスしているのだという。
とにかく経営指針成文化セミナーでは、出席者一人ひとりの、経営力だけでなく、経営者としての哲学や人間性までも、自らが考え込み、考え直さざるをえないように、追い立てられていく。経営者としての生き方や考え方、経営姿勢が鋭く問われているのだ。
そこに至って初めて、これまで何度も触れてきた同友会の諸原則、諸原理が、自らが発見する形で、「救い」として立ち現れてくるのである。
清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー