シェアハウスなどとはちょっと違う「家族的なもの」
西山くんの祖母は既に亡くなっていますが、もともとおばあちゃん子。この東京に出てきて、自分が鬱になったのも人との関わりが少なかったから。西山くんにとって、家はただ単に寝泊まりするだけでなく、家族的なものを求めるものだと言うのです。
かと言って、シェアハウスとかは、またちょっと違うようです。部屋を貸してもらって、でも家主さんの役にも立ちたい。それがこの東京で生きて行くために必要だと気がついた、西山くんの行きついた答えでした。
物件の売却も検討していた佐知子さんが、どういう決断をするのでしょうか。西日本で生まれ育った西山くんと、東京育ちの佐知子さん。大家と店子の立場で、人との関わり方に温度差もあるかもしれません。
多世代同士が支え合うことはとても素敵なことですが、現実にそんなことができるのでしょうか。私にとって、佐知子さんはたった一度お会いしただけの方。どのような判断をするのか、まったく見当もつきませんでした。
電話をしてみると、佐知子さんはいとも簡単に返事をくれました。
「いいじゃないの。若い子を応援したいわ。何かを手伝ってくれるというなら、それも心強いわ。ここを売却することも悩んだけど、これまで気ままに生きてきたから、やっぱり老人ホームに移るのも自信がないの。先のことはあまり深く考えず、滞納分が長期であっても払ってくれるというなら、それを見守りましょう。いろいろ間に入ってくれてありがとう」
佐知子さんは手伝い云々というより、孫のような西山くんを応援したいという気持ちが強いようです。新型コロナウイルスが教えてくれた、人と繫がる大切さ。それには信頼関係が絶対条件となります。
西山くんには、この先何年かかっても、滞納分を完済してほしいと思います。そして住まいは寝るだけの場所ではなく、心を休める場所。それは空間だけでなく、人との血の通った関わりも必要なのでしょう。
単身者の場合、それを隣人や家主と持てたなら、こんな心強いことはありません。地域差もあるでしょうが、いとも簡単に心は壊れるものだと教えてくれた新型コロナウイルス。ならばその心の弱さを、住む場所での心の通い合いで補っていきたい、そんな動きがとても嬉しかった案件です。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。
太田垣 章子
OAG司法書士法人代表 司法書士
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