バブル崩壊の予兆も、国内貨物輸送は好調のまま…
1990年に入ると、株価は一転して下降に転じ、債券と円もそろって値が下がり、「トリプル安」となりました。それこそがバブル経済がはじける予兆であったわけですが、その時点ではまだ国内の好景気は続いており、物流業界も大きな伸びを見せました。
以前から好調だった国内輸送がさらに増加し、貨物輸送(軽自動車等による輸送は除く)は対前年比7.6%増の4807億トンとなりました。
国際貨物輸送においても、海運業では円高で輸出こそ減ったもの、順調な国内消費がそれを上回り、輸出入の合計では対前年比8.3%増の7億3137万トンで推移しました。
航空貨物においても同様の傾向が見られました。
大手物流会社は、輸送の小口化、高頻度化という構造の変化への対応を進め、ジャスト・イン・タイムでモノを届けるという新たなニーズとも向き合うべく、最新技術を導入。自動仕分け機や無人運搬機が情報処理技術と結びつき、より高度な自動化を展開していました。
鉄道貨物輸送でも、国鉄より分社化された日本貨物鉄道株式会社を中心に活発な技術の開発・導入が行われ、最新式のコンテナ貨車の導入などで、長距離輸送分野を中心に再活性化していました。
法改正で広がった「大手企業・中小企業」の格差
そうして経済構造が重厚長大型から軽薄短小型へ転換し、物流に対するニーズも変わったことを受け、物流の中核をなすトラック事業を中心に、過去の法規制が見直されることとなりました。
政府の諮問機関による審議を経て、運輸省は1990年3月に「貨物自動車運送事業法案」と「貨物運送取扱事業法案」の2法案を国会に提出。同年12月に成立、公布されました。この「物流2法」による規制緩和は、物流市場を変化させ、新たな業者の参入を促すことになった重要な分岐点でした。1990年度の『運輸白書』で、物流2法の概要が示されているので、ここで紹介しておきます。
【貨物自動車運送事業法】
a 道路運送法からトラック事業規制を切り離し、新たに「貨物自動車運送事業法」とする。
b 路線トラックと区域トラックの事業区分を廃止し、従来の区域トラックも貨物の積合せができるようにする。
c 事業の免許制を許可制とする。需給規制は廃止し、許可基準は安全に重点を置く。ただし、運輸大臣は、特定の地域で供給が著しく過剰になる等緊急の場合は、期限を限って新規参入停止措置を講ずることができる。
d 運賃・料金は許可制を届出制とする。ただし、運輸大臣は、不当な運賃・料金には変更命令をすることができる。また、特に必要があるときは、標準運賃及び標準料金を設定できる。
e 運行管理者に試験制度を導入する等運行管理者の資格要件を強化する。
f 過積載の禁止、過労運転の防止等輸送の安全に関する規定を整備する。
g 運輸大臣は、過積載の防止、過労運転の防止等輸送秩序の確立を指導することを目的とした法人を中央、地方(都道府県単位)に指定することができる。
h 運輸大臣は、輸送秩序に係る法令違反の再発防止のため、関係荷主に勧告することができる。
【貨物運送取扱事業法】
a 貨物運送取扱事業を利用運送事業と運送取次事業とに区分し、前者を許可制、後者を登録制に整理する。これにより鉄道に係る貨物運送取扱事業、利用航空運送事業は、免許制が許可制となり、需給規制が廃止される。
b 航空、鉄道の利用運送と集配を一貫して行う事業は第二種利用運送事業とし、集配のトラック輸送も本法で一体的に許可することとする。
c 運賃・料金は届出制とする。ただし、運輸大臣は、不当な運賃・料金には変更命令をすることができる。
d 通運事業は、本法上の鉄道に係る貨物運送取扱事業とし、通運事業法は廃止する。
トラック事業の免許制から許可制への切り替え、路線トラックと区域トラック事業の免許区別の廃止、運送取次事業は登録制、利用運送は許可制、運賃は事前届け出制へ……。
まさに大盤振る舞いともいえる大幅な規制緩和といえます。参入のハードルが下がったことで新規参入が増えた半面、自由競争が激化し、体力で勝る大手企業と、中小企業との格差が広がったという側面もあったのです。
鈴木朝生
丸共通運株式会社 代表取締役
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