基本的に65歳で受給開始となる公的年金。しかし受給額は変わりますが、希望すれば60歳で受け取ることも、70歳で受け取ることもできます。そこで「いつ、年金をもらうのが得なのか?」の議論がかわされていますが、なかなか結論は出ません。今回は「平均寿命」ではなく、「平均余命」から考えてみます。

65歳男性の平均余命19.83年、疾病リスクを除くと…

このような議論がされる際、「明日、死ぬかもしれないのだから、できるだけ早く年金を受け取ったほうが得だ」「いや、人生100年時代と言われ、長生きがリスクになるような世の中なのだから、受給年齢は可能な限り遅くしたほうが得だ」など、さまざまな意見が交錯します。

 

何より健康でいることが大切(※写真はイメージです/PIXTA)
何より健康でいることが大切(※写真はイメージです/PIXTA)

 

よく取り上げられるのが、平均寿命。厚生労働省『令和元年簡易生命表』によると、2019年日本人の平均寿命は女性87.45歳、男性81.41歳。「これらから逆算すると、いつ受け取るのが得か」という主張です。

 

平均寿命のほかに、平均余命という指標もあります。ある年齢の人々が、その後何年生きられるかという期待値のことです。前出の調査によると、平均余命は60歳で男性23.97年、女性29.17年、65歳では男性19.83年、女性24.63年、70歳では男性15.96年、女性20.21年です。65歳の平均余命は、2010年男性18.74年、女性23.80年でしたので、10年余りで男性は1.09年、女性は0.83年、長くなりました(関連記事:『あと何年生きられる?年齢別「平均余命」早見表』)。

 

平均余命を前提とすると、先ほどの「平均寿命から逆算すると……」と年金受取年齢を考える方法とは、少しズレが生じます。

 

さらに死亡要因のリスクを排除すると、平均余命はさらに延びます。たとえば悪性新生物(腫瘍)。リスクを除去すると、65歳時点で男性なら2.89年、女性なら1.96年、75歳時点で男性なら1.98年、女性なら1.36年、平均余命が延びます。

 

心疾患(高血圧性除く)なら、65歳時点で男性なら1.11年、女性なら1.20年、75歳時点で男性なら0.92年、女性なら1.13年、平均余命が延びます。

 

三大疾病のうち、残る脳血管疾患のリスクを除くと、65歳時点で男性なら0.55年、女性なら0.58年、75歳時点で男性なら0.46年、女性なら0.52年、平均余命が延びます。

 

平均余命から考えると、「いつ年金を受け取れば得か」の答えも、少々ズレが生じますし、死因リスクを考えていくと、さらに変わってきます。いずれにせよ、得か損かだけを考えるならば、繰上げ受給のほうが最終的に総受取額は増えることに変わりはありません。

 

また総務省『2020年家計調査』を見ていくと、世帯主60世帯(世帯人数平均2.55人、世帯主年齢平均67.2歳)の消費支出は27万4798円。同調査による公的年金受取額平均は21万8980円(無職の65歳以上夫婦の場合)。「月に6万円ほどの赤字を解消できるよう、年金受取額を増やすには……」という考え方も。しかし「住んでいるところによって、消費額も違う」という主張もあります。

 

同調査によると、二人以上世帯の平均消費支出は27万7926円ですが、大都市に限ると29万2241円、小都市に限ると26万8992円と、2万3000円近い差が生じています。また県庁所在地別に見ていくと、最も消費支出の高い「さいたま市」は32万6313円。一方、最も消費支出の低い「那覇市」は21万6202円。那覇市であれば、平均的な年金額を受給できるのであれば、「いつ年金を受け取るのが得か」などと考えずに、年金だけで暮らしていけそうです。

 

なかなか結論が出ない、「いつ年金を受け取るのが得か」の答え。平均寿命で考えても、家計から考えても、事情も考え方もそれぞれなので仕方がありません。議論における様々な意見を参考に、自身の家計運営の考え方に即して適した受給年齢を決めるのが、後悔はなさそうです。

 

 

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