「お願いがあります」ついに切り出した借金の話
筆者は決心して刺身の美味しい炉端焼きの店にむらやんさんを誘った。むらやんさんとは難波店の開店までは、ほとんど毎日、一緒にお酒を飲む間柄になっていた。でも難波店オープン以降の半年間、経営の立て直しに奔走していた筆者は一切プライベートでお酒を飲みに行くことはなかった。半年ぶりの筆者の誘いにむらやんさんはとても喜んでくれた。
店に入ってカウンターに並んで座り、料理が出てきた後も、筆者はなかなか借金のことを口にすることができなかった。
「久しぶりだけどやっぱりここの魚はうまいなー、日本酒によく合うよ」
「ハイ、ホントに美味しいですねー」などと当たり障りのない会話を筆者は続けていた。いつものノリのない、どこかよそよそしい様子をいぶかしく思ったのか、むらやんさんは話題を美容室経営の話に振ってきた。
「で、どうなのヤーマン、美容室は順調に行ってるの?」
心臓がバクバクする。今言うしかない!
「スイマセン、むらやんさん、お願いがあります」
筆者はやっと借金の話を切り出した。
「で、何?300万?」真意をはかりかねる発言に…
むらやんさんは、日本酒を飲みながら筆者の話を聞いていた。
「ふーん、そうか。大変だなあ。で、何? 300万?」
「はい、300万円あれば、なんとか難波店の売り上げが上がるまで息をつなぐことができます。もうスタッフは揃いましたし、売り上げも上がってきています。あと2ヵ月持ちこたえられたら……」
筆者は顔を真っ赤にして、まくしたてた。この一瞬に難波店の命運がかかっている! むらやんさんは手を振って、もうわかった、という表情で首を振った。
「や、それはいいんだよ、ヤーマンが事業のことをしっかり考えてるのはわかってるよ」
「はい、ありがとうございます」
「俺も起業して失敗したこともたくさんあるしね、でも、失敗っていいよ」
「はい……」彼の真意をはかりかねて筆者は小さく相づちを打った。
むらやんさんは筆者の方に向き直ってじっと筆者の顔を見つめて言った。
「ヤーマンは機転が利くし、器用だからな、今までも苦労せずにうまく世の中渡ってこれたんだろ?」
「えっ、そんなことないです、営業の時とか苦労しましたよ」
「うんうん、でもそれとは別だな。人に借金申し込まなきゃいけないとこまで追いつめられるどん底感っていうのはそうそう経験することじゃないよ。本当に仲のいい俺なんかに借金の申し込みしようと決心するまでにはすごく迷ったんだろうと思うよ」
「……」
「でもそうでないと道は開けないよ。誰だって一人でやることには限界がある。何かやろう、何か大切なもの守ろうと思ったら、リスクを冒しても掴めるものは全部掴みに行く気概がないとな。いい経験だと思うよ、これは」
「……はい」
筆者はさらにうつむいて小さく返事をした。そんな筆者を励ますようにむらやんさんは筆者の肩を軽く叩いてにっこり笑った。
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