ある日突然、老親が緊急搬送で入院という事態が起こります。介護は毎日のことなので、使命感だけでは長続きはしません。10年以上、仕事をしながら父母の遠距離介護を続けてきた在宅介護のエキスパートは、「介護する人が幸せでなければ、介護される人も幸せにはならない」と訴えます。入院や介護に備え、知っておきたい制度やお金の話から、役立つ情報、具体的なケア方法までを明らかにします。本連載は渋澤和世著『親が倒れたら、まず読む本 入院・介護・認知症…』(プレジデント社)から抜粋し、再編集したものです。

介護をされている気がない認知症母へのイライラ

この時期、伯母が亡くなった。100歳超えという大往生だった。生前、母はこの伯母が大好きだった。父の姉であるが、ひとりっ子の母は本当のお姉さんのように感じていたらしい。告別式には一緒に連れて行った。「えっ、ねえちゃん?」と泣き崩れたかと思えば、火葬の間はお葬式で来ていることを忘れている。

 

挙句の果てに隣に座った別の伯母に「みんなが集まって楽しいね」と、とんでもない言葉をかけてしまった。当然だが「何を言っているの、お姉さんのお葬式でしょ」と唖然とされた。一部の親戚にしか母が認知症であることを伝えていなかった。親戚とはいえ、この年になると会うのはお葬式くらいだ。どこまで個人の問題をオープンにするのか悩ましい。

 

できないことは確実に増えてきているのに口は達者に動いている。全く私に対して感謝というものがないらしい。他人には丁寧だから家族としての意識が少しはあるようだ。この頃、母と私はとにかく言い争った。「こんなところに好きでいるわけじゃない、帰らせてもらうよ」と母、「どこに帰るの、誰も面倒を見てくれないからここにいるんでしょ、ひとりじゃ何もできないのに」と私。

 

入浴、食事、失禁、こちらは生活と介護に疲弊しているのに何とも偉そうに文句を言うのだ。「このばばぁ」と言いながら頬を叩いてしまったこともある。そのあと、自分で自分の頬を思い切り叩いた。手の跡が残るほど叩いた。後悔と懺悔の繰り返し。近所にはきっと怒鳴り声が聞こえていただろう、限界かも。

 

これなら施設に入った方が幸せかもしれないな。どうして良いかわからなくなった。私には仕事もあったし、小規模多機能のスタッフもいる。離れる時間と援助者がいることが私を正常に戻してくれた。本気で手をかけてはいけない。事件を起こしてはいけない。それだけは頭にあった。

 

親世代は介護という言葉自体に馴染みがないのかもしれない。父は6男で婿になったし、母はひとりっ子だけど、両親とも脳溢血と食道癌で数か月の入院を経て旅立ってしまった。しかも、介護というのは寝たきりになり、何もかも100%お世話になる状態だと思っている。

 

母は、失敗はあるがトイレには行けるし、自分で歩くし、手づかみでも食べ物がとれている。自分が介護をされているという認識がそもそもないのだ。私の方は、同居した頃から自分は在宅介護をしていると思っていた。この感じ方の違いがケンカの原因になるのかもしれない。


 

渋澤 和世
在宅介護エキスパート協会 代表

 

 

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