外出自粛は「肥満の人ほど心身に大ダメージ」…アメリカの調査

コロナワクチンの接種が進むアメリカでは、感染状況が落ち着き、街に活気が戻りつつある。緊急事態宣言の延長・拡大を行う日本とは真逆の様相だ。とはいえ、アメリカもかつては外出禁止令を出していた時期がある。当時の様子について、ボストン在住の医師がアメリカならではの事情とともに解説する。

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「毎月0.8kgも太る」…コロナ流行で肥満リスク増大

アメリカでは2020年3月19日から4月6日まで、50州のうち45州が、新型コロナウイルスの感染対策として外出禁止令を出しました。ジムは突然閉鎖され、スポーツなどの活動は中止になりました。このとき、多くの米国人が心配したのは「肥満」です。

 

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部のグレゴリー・マーカス博士らは、各州の外出禁止令が発行される前後の体重の変化を調べ、2021年3月の米医師会雑誌(JAMA)ネットワークオープンに報告しました(※1)
 

調査の対象は、UCSFが行う「Health eHeart調査」の269人の参加者です。参加者は、米37州およびコロンビア特別区に居住しており、2020年2月1日から2020年6月1日まで、定期的に体重を測定しました。参加者の約半数が男性(48%)、4分の3が白人(77%)、平均年齢は52歳でした。

 

すると、地理的な要因や併存疾患に関係なく、「10日ごとに0.27kg」の割合で、着実に参加者の体重が増えていることがわかりました。これは毎月約0.8kgの体重増加に相当します。博士らは、外出禁止令により毎日の歩数が減ったこと、その一方で過食が増えたことを指摘します。

 

毎月約0.8kgの体重増加は、臨床的にそれほど重要ではないように思われるかもしれませんが、新型コロナウイルスの流行が長引いているなかでは、大幅な体重増加につながります。

 

※1 https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2777737

外出禁止令解除後も体重増加…最大の原因はストレス

さて、新型コロナウイルスの流行が始まってから1年以上が過ぎました。アメリカ心理学会は、米ハリス世論調査にて、2021年2月19日から2月24日までのパンデミック1周年調査を実施しました(※2)。対象は、米国に居住する18歳以上の成人3,013人です。

 

調査の結果、61%が、新型コロナウイルス流行後に望ましくない体重変化を経験したと回答しました。5人に2人(42%)は想定以上に体重が増えたこと、平均13kg体重が増加したこと(中央値は+6.8kg)を報告しました。

 

体重の変化は、メンタルヘルスに問題があるときによく見られる症状です。調査では、ストレスのレベルを1(ストレスがほとんどまたはまったくない)から10(ストレスが非常に大きい)で評価しました。すると、過去1年間で望ましくない体重変化を報告した人は、ストレスレベル8~10のなかでは75%であったのに対し、ストレスレベル1~3のなかでは43%という結果が出ました。

 

メンタルヘルスの悪化を世代別に比較すると、Z世代(18〜24歳)では46%、X世代(43–56歳)では33%、ミレニアル世代(25〜42歳)では31%、団塊世代(57〜75歳)では28%、高齢者(76歳以上)では9%と、もっとも悪化したのはZ世代でした。

 

メンタルヘルスの悪化は睡眠時間にも影響を及ぼします。ストレスレベルが低い人のうち、睡眠時間の増減を訴えたのは42%でしたが、その一方でストレスレベルが高い人においては、84%もの割合が睡眠不足や睡眠過多を報告しています。

 

また、調査対象のうち23%は、ストレスに対処するためにより多くのアルコールを飲んだと回答しています。飲酒量が増加した割合は、小学校低学年の子供(5~7歳)を持つ親だと半数以上(52%)にものぼります。そのほか、オンライン授業のために子供がずっと家にいるという親においても、5人に3人以上がストレスの高まりを感じています。

 

ストレスレベルの違いは運動量の減少具合においても差を生んでいます。パンデミックが始まって以来、運動量が減ったと答えたのは、ストレスレベルが低い人では42%にとどまる一方で、ストレスレベルが高い人においては5人に3人以上(62%)です。

 

新型コロナウイルスの流行によるストレスの高まりは、多くの米国人の体重、睡眠、アルコール摂取などに影響を及ぼし、心と体の健康をむしばんでいます。これは特に子供がいる人や、若者、エッセンシャルワーカー、そして有色人種において顕著です。

 

今後、慢性疾患の増加や国の医療制度へのさらなる負担など、個人や社会に長期的かつ重大な影響を及ぼすでしょう。

 

※2 https://www.apa.org/news/press/releases/stress/2021/one-year-pandemic-stress

肥満の人ほど「外出禁止令によるダメージ」が深刻

さらに、米ルイジアナ州ペニントン生物医学研究センターのリアン・レッドマン博士らは、2021年2月の医学誌『肥満』の報告で、「外出禁止令と感染に対する恐怖が、精神的健康を低下させ、生活習慣行動に大きな影響を与えています。これらの悪影響は、肥満の人ほど現れています。」と指摘しました(※3)

 

博士らは、新型コロナウイルスの流行による外出禁止令が、心や体の健康にどのような影響を及ぼしたかということを、ソーシャルメディアを利用して調査しました。

 

参加者は7,753人で、主に米国(4,890人)、英国(1,839人)、オーストラリア(497人)、カナダ(154人)に居住しています。平均年齢は51歳。参加者の約3分の1は正常な体重(32%)、太りぎみ(32%)、および肥満(34%)です。参加者のマジョリティであったのは女性(80.0%)、白人(89.6%)、2人世帯(42.2%)でした。

 

外出禁止令の間は外食が減り、自宅での料理が増えたため、食事は健康的になりましたが、座りがちな生活になったため、身体活動に費やす時間は減りました。

 

調査の結果、対象者の27.3%が体重増加を報告しました。この報告は、太りぎみ(20.5%)や普通体重(24.7%)と比較して、肥満(33.4%)でより多く見られました。体重増加を報告した回答者は、食事行動にほとんど変化はありませんでしたが、身体活動が大きく低下していました。

 

また、外出禁止による社会的孤立は心の健康に打撃を与えました。約20%の参加者が、恐怖を感じたり、不安をコントロールできなかったりと、日常生活に支障をきたすほど深刻であると述べています。体重増加の報告と同様、とりわけ肥満の人に顕著でした。

 

なぜ肥満の人ほど影響を受ける傾向にあるのか、この調査では正確な理由は不明でしたが、理由の1つとしてウイルスへの懸念が考えられます。この調査が行われたのは、肥満が新型コロナウイルスの感染で入院するリスクが高いことが示された時期でした。

 

とはいえ悪いニュースばかりではありません。参加者の17.3%は体重減少を報告しましたが、報告者の割合は、肥満では18.0%、太りぎみでは18.0%、正常の体重では17.8%と、違いはありませんでした。体重が減少した人々は、身体活動が増え、食事を健康的に改善した傾向がありました。減量は当然の結果といえるでしょう。

 

さて米国では、ワクチンの普及とともに、新型コロナウイルスの流行が落ち着いてきました。ジムやスポーツなどの活動が再開し、イベントも始まりました。さらに、2021年5月13日、米疾病対策センター(CDC)は、「ワクチンを接種した人はマスクの必要がない」という指針を発表しました。こうして少しずつ元どおりの生活が戻りつつあるなか、ストレスが減り、身体活動が増えることが期待されます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

※3 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33043562/

 

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大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

 

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星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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