麻酔科医から在宅医へと転身した矢野博文氏は書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』のなかで、「最期までわが家で過ごしたい」という患者の願いを叶えるために、医師や家族ができることは何か解説しています。

 

「ご自分の体についてどう思っていますか?」

 

飯田さんは、「悪くなっているのは自分でもわかっています」といつものように淡々と答えました。私はうなずき、

 

「特に肝臓のダメージが大きいようです」

 

と返しました。飯田さんは静かにうなずいただけで何も語りませんでした。その日から疼痛はないものの全身の倦怠感が現れ、医療用麻薬の投与を開始しました。

 

それから数日で次第にサチュレーションの維持が困難となり、心不全の徴候が出現し、大好きなアイスクリームを少しずつは食べられましたが、入院6日目に旅立たれました。

 

何があっても「淡々と」
死を前にしても…「自分でもわかっています」(画像はイメージです/PIXTA)

多くのがん患者は、感情を表出することが多いのだが…

飯田さんが亡くなってからの振り返りの中で気づいたことですが、飯田さんは終始一貫して淡々と行動していました。自分の境遇を悲しむでもなく、嘆くでもなく、誰かに怒りをぶつけるでもなく……。

 

多くのがん患者はいらついてみたり、周囲にわがままを言ってみたりして、満たされない感情を表出することが多いようですが、飯田さんにはそういう行動は見られませんでした。

 

飯田さんの性格として、元々わがままな生活をしてきた(娘さんの弁)ので、わがままが目立たなかったのでしょうか?

 

一つには多くのがんを体験したという病歴が関係しているかもしれません。飯田さんの場合、多くのがんを体験し、「死」と正面から向き合う機会が多かったのは事実です。

 

健康なときは「死」と真剣に向き合うことはあまりないかもしれませんが、健康な人であってもいつかは「死」に直面し、それと対決せねばなりません。

 

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矢野 博文

 

1957年7月徳島市生まれ。1982年川崎医科大学を卒業。以後病院で麻酔科医として勤務。2005年3月よりたんぽぽクリニックで在宅医療に取り組む。

 

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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