デカルトの「我思う、ゆえに我あり」の価値
ホッブズと同時代にフランス哲学界に登場するのが、「近代哲学の父」「大陸合理論の祖」デカルトです。考える主体としての精神とその存在を定式化した、デカルトの「我思う、ゆえに我あり」は、哲学史上、最も有名な命題のひとつであり、理性で真理を探求していこうという近代哲学の出発点となりました。
17世紀科学革命の時代に生きたデカルトは、数学・幾何学によって得られた概念こそが疑い得ないものであると考えました。宗教的権威に基づく先入観を排除し、「全てのことを疑う」ことを通して確実な知識を求める方法的懐疑(確実なものに到達するまでの手段としての懐疑)を進めた結果、神の存在さえも疑うようになった当時の懐疑主義に対し、全てのものが懐疑にかけられた後にどれだけ疑っても疑い得ないものとして精神だけが残るとの結論に至りました。
このように、「存在について語る前にどのようにして存在を認識するかを論じなければならない」というデカルトの主張は、世界の普遍的原理を理性で認識しようという形而上学の中心課題を、存在論(ontology)から認識論(epistemology)へ転回させることになりました。
また、デカルトは、空間的広がりを持つが思考ができない「物質」の世界と、空間的広がりを持たないが思考はできる「心」という二つの実体があるとして、これらは互いに独立して存在するという物心(心身)二元論(mind-bodydualism)を唱えました。これは、哲学における伝統的な問題であり、現在では、認知科学、神経科学、理論物理学、コンピューターサイエンスにおいても議論されています。
イギリス経験論では、人間は経験を通じてさまざまな観念・概念を獲得するとして帰納法的に真理を探るのに対して、デカルトに始まる大陸合理論(continental rationalism)では、人間は生まれながらにして基本的な観念や理性(生得観念)を持っていると考えます。そして、その理性的認識によって真理を捉え、そこからあらゆる法則を導こうとする演繹法が真理探求の方法とされました。
堀内 勉
多摩大学社会的投資研究所 教授・副所長
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