ビジネスリーダーとしての「洞察力」を磨く
それではここで、ビジネスリーダーにとって読書がなぜ必要なのかを考えてみましょう。
“Agreat leader is a great reader.”(「良き指導者は良き読書家である」)という言葉があります。読書家で有名な経営者の代表として、マイクロソフト創業者でビル&メリンダ・ゲイツ財団共同会長でもあるビル・ゲイツが挙げられます。彼は年間50冊以上の本を読んでいて、2012年からは毎年、自身のブログ「ゲイツノーツ」(Gates Notes)を通じて、彼が読んだ本の中から数冊を推薦書として公開しています。
毎年、この推薦書リストが大変な注目を集めるのですが、2018年には、その中から、「これまで読んできた中で最も重要な本のひとつ」として、『FACT FULNESS(ファクトフルネス)』の電子版を、その年に卒業したアメリカの大学生全員にプレゼントしたことでも話題になりました。
ソフトバンクグループ創業者兼会長兼社長の孫正義は、起業後わずか2年で患った肝炎で入院していた3年半の間に、3千冊もの本を読破したといわれています。そのほかにも、世界で最も有名な投資家であるウォーレン・バフェットや、Facebook創業者兼会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグなど、著名な経営者で熱心な読書家という人は枚挙にいとまがありません。
どんな情報でも瞬時に手に入るこのインターネットの時代に、超多忙な実業家がわざわざ貴重な時間を割いて読書をするというのは、単純に「知識を得る」目的だけではありません。ビジネスリーダーとしての、あるいは人間としての「洞察力」を高めるためなのです。
私がかつて仕えた森ビルの実質創業者・森稔は、世界的建築家で画家でもあったル・コルビュジエの絵画の、世界有数のコレクターでした。彼は大学生の時に、先代の泰吉郎から不動産業を始めるので手伝うように言われ、とても悩んだそうです。地主や大家はまさに資本主義における搾取階級の権化であり、文学青年だった当時の彼には、とても受け入れられることではなかったからです。
その時に出会ったのが、コルビュジエの『輝く都市』で、その都市開発の思想に頭を殴られるような衝撃を受けたそうです。この本を読んで、自分は不労所得を得るために不動産業をやるのではなく、戦争で灰燼に帰した東京を立て直し、人々が生きる「街づくり」をするためにデベロッパーを始めることを決意したのだと、何度となく熱く語ってくれたのを今でも鮮明に覚えています。
森稔は、大学の商学部の教授で自分の経営理論の正しさを証明するためにビジネスとして不動産業を始めた泰吉郎と、ことあるごとに衝突し、何度も挫けそうになったそうですが、そのたびに心の支えになってくれたのが、コルビュジエの本であり絵画なのだと言っていました。