紀元前500年頃を中心とする前後300年は「枢軸時代」と呼ばれ、ギリシア、インド、中国と東西を問わず哲学が生まれた時代です。哲学はその後、さまざまな学問の源流となりました。人間の思考全体の流れをつかむために、西洋哲学の成り立ちについて見ていきましょう。※本連載は、堀内勉氏の著書『読書大全』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

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    「人間は何のために生きるのか?」という問い

    西洋哲学の特質はギリシア哲学とキリスト教信仰(ヘブライ信仰)をその基底としている点です。

     

    イオニア(現トルコ)を中心に始まった初期ギリシア哲学では、その考察の対象は「自然」でした。そこで問われたのは、「世界はなぜできたのか」「世界はなにでできているのか」であり、ギリシア数学のような演繹(えんえき)法を用いた論理的思考にその特徴があります。

     

    イオニアの吟遊詩人ホメロスの叙事詩『イーリアス』『オデュッセイア』が作られた紀元前8世紀頃から、古代ギリシア最古の哲学者といわれる紀元前6世紀のタレスまでが、この時代にあたります。

     

    これが、紀元前5世紀にアテナイにソクラテスが登場し、さらにプラトン、アリストテレスの時代になると、「人間はなんのために生きているのか」「人間はいかに生きるべきか」という内面の問題に焦点を当てるようになり、「自然」に加えて「人間」がその考察の対象になりました。

    事物には「本質」がある…プラトンの「イデア論」

    ソクラテスは、プロタゴラスに代表される、弁論術を駆使した当時のソフィストたちの相対主義(relativism)を克服し、普遍的で絶対的な真理を探究しようと努めました。こうしたソクラテスの理想主義を受け継いだのが、ソクラテスの弟子でアリストテレスの師であったプラトンです。

     

    プラトン哲学の中心は「イデア論」(theory of Ideas)です。これは、我々が認識している生成変化する対象や世界の背後には、永遠不変の「イデア」(観念、理念、理想)という事物の「本質」があり、このイデアこそが真の「実在」で、表に現れた世界は不完全な仮象に過ぎないとするものです。

     

    このように、全ての事物には変化しない核心部分としての本質(客体的な実在物)が存在し、事物のありようは本質によって決定されるという考え方を「本質主義」(essentialism)といいます。

     

    古典的なヒューマニズム(人文主義)は、永遠不変の人間性(humannature)の存在を信じるという、人間についての本質主義的な考え方を前提にしています。つまり、人間には人間性や人間らしさというものが本質として存在していて、その存在自体は不変かつ疑いの余地がないものだとみなされてきました。

     

    我々の認識の背後にはイデアという観念が実在するという考えは、観念的なものを本質だと考えるという意味で観念論(idealism)であり、認識の本質や方法、その限界などについて考察する認識論(epistemology)の源流であるともいえます。同時に、イデアという観念が実在するという意味で(素朴実在論に対する観念実在論としての)実在論(realism)の起源でもあります。

     

    こうしたプラトン哲学は、今に至る西洋哲学における論点の多くを網羅しており、イギリスの哲学者アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドが、その著書『過程と実在』の中で、「西洋のすべての哲学はプラトン哲学への脚注に過ぎない」といっているほどです。

     

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