紀元前500年頃を中心とする前後300年は「枢軸時代」と呼ばれ、ギリシア、インド、中国と東西を問わず哲学が生まれた時代です。哲学はその後、さまざまな学問の源流となりました。人間の思考全体の流れをつかむために、西洋哲学の成り立ちについて見ていきましょう。※本連載は、堀内勉氏の著書『読書大全』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

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    紀元前5世紀頃、さまざまな学問の源流「哲学」が誕生

    「哲学」という言葉は、教育家で啓蒙思想家の西周(にしあまね)によって、明治初めに英語の"philosophy"(フィロソフィー)の訳語として作られました。"philosophy"という言葉は、ギリシア語の“philosophia"(フィロソフィア)に由来し、“sophia”(ソフィア、知恵)と“philein”(フィレイン、愛する)が結びついたもので、「知恵を愛する」という意味です。

     

    人間は全知全能の神と同じではないが、知を愛し、それを求める中で、少しずつ本当の真理に近づいていく存在であるというのが本来の意味です。上智大学(Sophia University)の「上智」と、フィランソロピー(慈善活動)の「慈(いつくしみ)」だといえば、日本人にも馴染みがあるかもしれません。

     

    この「フィロソフィア」という言葉は、古代ギリシアのヘラクレイトスやヘロドトスによって使われていましたが、哲学を表す名称として確立したのはソクラテスやプラトンからだとされています。

     

    (※画像はイメージです/PIXTA)
    (※画像はイメージです/PIXTA)

     

    このほかに、同じく紀元前5世紀頃に哲学が生まれた地域としては、孔子や老子ら諸子百家の黄河流域、ウパニシャッド哲学と釈迦の北インドがあり、ギリシアも含めてこれらの哲学は、後世の哲学・思想・宗教の源流となりました。

     

    仏教哲学者の井上円了(えんりょう)は、ソクラテス、イマヌエル・カント、孔子、釈迦の四人を古今東西の哲学を代表する聖賢として選び、「四聖(しせい)」と呼んでいます。

     

    また、ドイツの哲学者で精神科医でもあったカール・ヤスパースは、『歴史の起源と目標』の中で、紀元前500年頃を中心とする前後300年の時代に起きた世界規模での知の爆発を、「世界史の軸となる時代」という意味で「枢軸時代」(Axial Age)と呼びました。

     

    さまざまな学問の源流となった哲学ですが、そもそも哲学というとつかみどころがなく、取りつきにくい感じがするかもしれません。そう感じるのは当然で、古代ギリシアから現代に至るまで、哲学には一定の考察対象というものが存在しません。「哲学の目的は思考の論理的明晰化である」(ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン)という言われ方をするように、人間の思考と時代の流れとともに、その対象も範囲も常に変化しているのです。

     

    そこで、まずは全体の流れをつかむために、西洋哲学の成り立ちについて概観してみましょう。

     

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