住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃しています。そのなかで、「所在不明・連絡先不通」の空室が問題になった事例を、作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より一部を編集・抜粋して解説します。

管理費・修繕積立金を払わず…「差し押さえしてくれ」

単身世帯で親類縁者がどこにいるかわからず、管理組合に「緊急連絡先なし」と伝えている人が亡くなるとまわりは頭を抱え込みます。大阪府下の団地の管理組合理事は、苦労の末に空室状態の相続住戸を競売した経緯を、こう語りました。

 

「そこは夫婦世帯で子どもはいませんでした。ご主人が亡くなったときに奥さんに名義変更していればよかったけど、そのまま。奥さんも亡くなり、相続人がいない。親戚を探し回って、ご主人の甥っ子が管理すると言ったが、遠くに住んでいて管理費も、修繕積立金も払わず、差し押さえでも何でもしてくれ、と居直った。相続放棄です。そこからご主人側の親類に一人ずつ当たって相続放棄してもらい、奥さん側も潰していったら、一人行方不明者がいた。その人がもしも現れていたらどうだったか……。行方不明のままでね。何十万円も払って家庭裁判所に相続財産管理人の弁護士を選んでもらい、交渉を重ねて空室を競売にかけた。競売価格は五二〇万円で管理費、積立金の滞納分は回収できました。七年かかりましたよ」

 

単身世帯で「天涯孤独」を貫いた人が遺した住戸の処分は大変です。管理組合団体の幹部は、次のように言います。

 

「一般人では調べ尽くせない来歴の故人もいます。本当に誰一人、連絡が取れない人は役所に頼むしかない。結局は警察ですね。警察は独自の情報網で係累を探し出してくるけど、遠い地方や外国に住んでいて、そっちで処分してくれ、という縁者が多い。最後は競売ですけど管理組合にかかる負担は大きいですよ」

 

マンションの空室問題は、旧日本住宅公団(現UR都市機構)や大小さまざまな不動産会社、建設会社が「土地利用の高度化」や「都心居住」といった国策に沿って住戸供給を続けた結果、生じています。社会的、経済的な構造に起因しているのですが、現時点で受け皿は住民で構成する管理組合しかありません。

 

マンション管理の根本方針を定めた「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」の指針は「マンションを社会的資産として」保全し、管理するよう示しています。マンションを社会的資産と位置づけながら、構造的な空室問題の受け皿は管理組合だけ。しわ寄せは、すべて住民へ。これでいいのでしょうか。

 

ただでさえ、多くのマンションに建物の老朽化と、住民の高齢化という「二つの老い」がのしかかっています。

 

住民(区分所有者)が老いて管理組合の理事のなり手がなく、管理費や修繕積立金は足りず、滞納も生じている。そこに認知症の難題が持ち上がり、空室も増える。修繕が遅れるから建物は傷み、設備も劣化する。水道からサビ混じりの赤水が出て、排水管は詰まって汚水が逆流し、悪臭が立ちこめる。整備不良のエレベーターは止まり、敷地内にごみが散乱。

 

耐えかねた住民はマンションを去り、賃借人も出ていく……。待っているのはスラム化です。

 

 

山岡 淳一郎

ノンフィクション作家

東京富士大学客員教授

 

 

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生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

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山岡 淳一郎

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建物の欠陥、修繕積立金をめぐるトラブル、維持管理ノウハウのないタワマン……。さまざまな課題がとりまくなか、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃している。廃墟化したマンションが出現する…

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