(※写真はイメージです/PIXTA)

一般社団法人 全国銀行協会『よりよい銀行づくりのためのアンケート報告書 2021年度』によると、個人預貯金口座のうち、最も保有率が高いのは「ゆうちょ銀行(72.1%)」。メインバンクとして利用する人も多いのではないでしょうか。実はゆうちょ銀行は、他の金融機関に比べて相続手続きが複雑なのだとか。ゆうちょ銀行での相続手続きの流れや、故人口座に遺されていた預貯金の取り扱いについて、司法書士・佐伯知哉氏が解説します。

ゆうちょ銀行の相続手続きは「面倒」!?

 

今回はゆうちょ銀行の相続手続きについて、主にデメリットの部分を解説します。

 

ゆうちょ銀行で口座開設している方は多いでしょう。筆者の事務所では遺産相続の相談を多数いただきます。その一環で、金融機関に対する相続手続きのお手伝いをする機会が多くあるのですが、やはり大半がゆうちょ銀行の口座です。

 

正直、ゆうちょ銀行の相続手続きは面倒が多いと感じます。これをXに投稿したところ、同業者から賛同の声が集まり、「相続実務に携わる人は筆者と同じ感覚を抱いていたのだな」と深く感じ入りました。

そもそも「金融機関で行う相続手続き」とは?

まず、金融機関での一般的な相続手続きから説明しましょう。預貯金を相続する場合の手続きは、次のとおりです。

 

<預貯金相続の流れ>

①被相続人が亡くなる(相続発生)

②相続人の調査

③口座の調査(この時点で口座凍結)

④遺産分割協議を行う(遺言書があれば不要)

⑤金融機関に書類一式を提出し、相続手続きを開始

⑥預貯金の払戻し

 

預貯金相続の流れは6段階に分けられます。まず、被相続人が死亡することで相続が発生します。次に、戸籍謄本などの書類を取得し、誰が相続人になるのかを調査していきます。

 

その後、被相続人(故人)がどのような口座を持っていたのかを調べ、それぞれの金融機関に連絡をしていきます。連絡を受けると金融機関側は被相続人の口座を凍結しますので、この時点で預金の払戻しなどはできなくなります。

 

そして相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決めていきます。ただし、被相続人が遺言書を残していた場合は、遺産分割協議は不要です。基本的には遺言書の内容どおりに遺産を分けていく形になります。

 

金融機関に書類一式を提出し、相続手続きを開始します。これが終わると、預貯金の払戻しを受けられます。

 

金融機関の相続手続きに必要な書類は、おおむね共通しています。

 

<金融機関の相続手続きの必要書類>

1. 相続届(フォーマット等は金融機関ごとに異なる)

2. 被相続人と相続人の戸籍(除籍・改製原)謄本

3. 相続人の印鑑証明書(有効期限アリのため注意)

4. 遺産分割協議書(遺言書がある場合は、遺言書を提出)

 

金融機関によって名称やフォーマットは異なりますが、まずは相続届です。その金融機関が指定する書類に記入します。

 

次に、被相続人と相続人の戸籍(除籍・改製原)謄本です。これは相続人調査の際に収集した、被相続人の出生~死亡までの戸籍(除籍・改製原)謄本や、各相続人の戸籍(除籍・改製原)謄本です。

 

印鑑証明書については、他の相続手続き(法務局で行う「相続登記」など)の場合は特に有効期限等はないのですが、金融機関の相続手続きでは、金融機関が独自の有効期限(「発行から半年以内のもの」など)を設けている場合があります。ご注意ください。

 

最後は遺産分割協議書です。ただし、先ほども述べたように、遺言書があれば遺産分割協議は不要です。ですので遺言書がある場合は、遺産分割協議書の代わりに遺言書を提出する形になります。

 

大まかではありますが、以上が一般的な預貯金相続の流れです。

ゆうちょ銀行における相続手続き

続いて、ゆうちょ銀行における相続手続きの流れを見ていきましょう。

 

<ゆうちょ銀行の相続手続き>

①窓口に相続確認表を提出(郵送不可)

②ゆうちょ銀行からの必要書類の案内が届く

③必要書類を提出(郵送不可)

④被相続人の口座解約後、相続払戻金を受け取る

 

ゆうちょ銀行ではまず、相続確認表というゆうちょ銀行指定の書類を窓口に提出します。郵送不可ですので、必ず窓口に行かなければなりません。ゆうちょ銀行の相続手続きには「支店」という概念がないので、最寄りのゆうちょ銀行の窓口で大丈夫です。

 

すると、ゆうちょ銀行から約1~2週間で「必要書類のご案内」が届きますので、これに従って記入するとともに、必要書類を用意・提出します。提出する際も郵送不可ですので、また最寄りのゆうちょ銀行の窓口に行ってください。

 

書類を提出後、被相続人の口座が解約され、約1~2週間で相続払戻金を受け取ることが出きます。

ほかの金融機関なら「必要書類を投函して終わり」だが…

以上からわかるように、ゆうちょ銀行の相続手続きでは、少なくとも2回は窓口に直接行く必要があります。

 

「うちは近所にゆうちょ銀行があるから、窓口に行くだけならそれほど手間ではない」と感じる方もいるかもしれません。しかし窓口は基本的に平日しか開いておらず、営業時間も決まっています。平日働いている人などの場合は、ゆうちょ銀行の営業時間に合わせて休みを取ることになるでしょう。

 

また、窓口に行って帰るまでの時間や、行き来にかかる交通費、窓口で書類チェックを受ける時間(人手が足りなかったり、混んでいたりなどすれば1時間待ちもザラです)などについても考えてみてください。

 

もし必要書類が郵送OKだったなら「投函して終わり」です。上述のようなコストはかからず、「銀行側に届き次第チェックしておいてください」で済むのです。

ゆうちょ銀行では、相続払戻金を他の金融機関に送金できない

最も気になるのは「払戻金の取り扱い」についてです。筆者がXに投稿したのも、同業者の間で不満が多く挙がったのも、この部分です。

 

実はゆうちょ銀行では、解約した口座に残っていたお金は、ゆうちょ銀行の口座にしか送金できません。同じ金融機関のなかでしか送金できないという仕様は、少なくとも筆者の知る限りではゆうちょ銀行だけです。筆者が司法書士として関わった他の金融機関では、解約後、その口座の残金を他の金融機関に送金することができました。

 

相続人がゆうちょ銀行に口座を持っていれば、そのゆうちょ口座に相続払戻金を送金することができます。とはいえ、自身のゆうちょ口座がない(新規開設する予定もない)場合や、ゆうちょ口座はあっても他の金融機関の口座で受け取りたい場合などもあるでしょう。

 

このような場合は、ゆうちょ銀行でもらえる払戻証書(小切手のようなもの)を窓口で現金化し、自分自身で別の金融機関の口座へ入金することになります(※)。多額の現金を持って移動するわけですから、非常に危険です(※司法書士などが手続きを代理する場合は「預り金口座」を作り、窓口で現金化した残金をいったんそこへ入金したのち、相続人が指定する口座に送金します)。

 

なぜゆうちょ銀行では、解約した口座の残金を、ゆうちょ銀行以外の口座に送金できないのか。筆者はその理由を知りませんが、他の金融機関では「できる手続き」であるだけに、謎ルールだと感じます。今後改善されたら嬉しいですね。

複雑な手続きは「専門家に代行してもらう」という選択もアリ

以上、今回はゆうちょ銀行の相続手続きについて解説しました。

 

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【まとめ】

●最低2回は窓口へ行く必要がある

●解約後の金銭を、ゆうちょ銀行以外の口座に送金することはできない

●払戻証書を使って窓口で現金を受け取り、自分で別の口座へ入金しなければならない

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ゆうちょ銀行における相続手続きは、さまざまな金融機関のなかでも特に手間がかかります。手続き自体が面倒で気が進まない、平日は時間が取れない、預貯金以外の相続手続きも含めて相談したいなどの場合は、専門家に依頼することも検討してみてはいかがでしょうか。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

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