経営権を握った直後、社員に放った「二本の矢」
■社員と仲間になる社長
2007年4月、伊奈が社長として戻ってきた時の社内の様子を、現在は取締役東日本営業統括部長として横浜にある支店の責任者をしている山本真吾は、こんなふうに記憶している。
「伊奈さんは戻ってくるといきなり社長の給料を半分にすると宣言されて、社員全員とても驚きました。当初はいらないと言っていたとも聞きました。でもそれだけはやめてくれと周囲が説得したら、それなら半分でいいと言って社長を引き受けてくださったと聞いています」
あまりに強烈な新社長伊奈の「給料不要」発言。そのインパクトの大きさは、同社取締役の井村や山本たち社員を驚かせるには十分だった。そして同時に、彼らの中に「会社が変わる」という予感が芽生えたとは言えまいか。それまでの社内の淀んだ雰囲気は一掃され、「何かが始まる」という期待感が生まれてきた。
それこそが経営権を握った伊奈の狙いどころだったのだ。さらに伊奈は、社員の視線が自分に集まっているのを承知のうえで、二の矢を放った。
「君たちは希望のもてる会社で働きたいだろう。だとしたら、わが社は従来の石油ボイラー一辺倒でなく、市場が求めているいろいろな商品にチャレンジしよう。そのうち『昔はボイラーの会社だったな』と懐かしむことになってもいいじゃないか」
この一言こそ、井村や山本たち多くの社員が待ち望んでいた一言だった。
実はこの頃、山本と伊奈の間にも緊張感の高いやりとりがあった。
当時山本はまだ入社8年目。入社早々に栃木県小山市にできた営業所に赴任して、その後仙台にできた東北支店へと転勤していた。山口大学の教育学部卒。本来なら教師になるつもりだったが、大学の先輩が働いている民間企業である長府工産を選んだ。容姿は細身で飄々としているが、若い頃から熱血漢であり正義感の強い男でもある。
だが入社しても本社勤務の経験がなかったから、伊奈とは2005年の退任前にはほとんど面識がなかった。「専務が退社された」という報も、遠く仙台で聞いただけで、「ふーん」という感想しかなかったという。
ところがその伊奈が社長になって間もなく、東北支店の会議にやってきた。もちろん二人はほぼ初対面。伊奈にしてみたら、山本という名前すら知らなかったはずだ。その伊奈に対して、山本が会議で正面から意見を言った。
「あの石油ボイラーを売り続けるのはもう無理でしょう。なぜ会社は早く扱いをやめてくれないのですか? あのボイラーの営業に疲れて辞めていく社員も多いのに」
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